IT業界とは何かを調べると、たいてい「ソフトウェア」「ハードウェア」といった5つの分類が出てきます。もちろんそれも大切な整理の仕方ですが、実際に就職活動を進めていくと、分類以上に重要な視点があることに気づくはずです。それが、企業ごとの「ビジネスモデルの違い」です。同じソフトウェア業界に属していても、自社サービスを開発する会社と、他社から仕事を請け負う会社とでは、働き方もキャリアの伸ばし方もまったく異なります。この記事では、就活キャリア研究所が業界研究の相談を受けるなかで見えてきた、分類表だけでは見落としがちなIT業界の実像を、ビジネスモデルという切り口から解説します。
そもそもIT業界とは何か。ひとつの業界というより機能の集合体
IT業界という言葉は便利ですが、実は一つの塊として捉えると理解を誤りやすい言葉です。情報技術に関わる企業を幅広く指すため、扱う商品もサービスもビジネスの作り方も、企業ごとに大きく異なります。あるIT企業はスマートフォンアプリを自社で企画・開発・販売していますし、別のIT企業は銀行の基幹システムの一部を請け負って作っています。同じ「IT企業」という肩書きでも、仕事の中身は別の業種と言ってよいほど違うのです。
だからこそ業界研究の入り口では、まず「IT業界にはどんな会社が集まっているのか」を大づかみに把握する作業が欠かせません。次の章で紹介する5つの分類は、その大づかみな地図として役立ちます。
IT業界の5つの分類。ソフトウェア・ハードウェア・情報処理サービス・通信インフラ・インターネット
IT業界を語るときによく使われるのが、次の5つの分類です。どの分類に属する企業を志望するかによって、身につくスキルや働く場所の性質が変わってきます。
ソフトウェア業界
パソコンやスマートフォンで動作するアプリケーションやシステムを開発する企業群です。業務システムを作る会社もあれば、ゲームや家計簿アプリのように個人向けの製品を作る会社もあります。プログラミングを使って形のないものを作り出す仕事の代表格といえるでしょう。
ハードウェア業界
パソコン本体や半導体、サーバー機器といった、情報を処理するための「モノ」を作る企業群です。回路設計や品質管理など、ものづくりの要素が強いという特徴があります。ソフトウェア業界に比べると、製造業に近い働き方をする企業が多く見られるでしょう。
情報処理サービス業界(SIer)
企業の基幹システムや官公庁のシステムなど、大規模なシステムの企画から構築、運用までを請け負う企業群です。SIerと呼ばれる大手システムインテグレーターがこの分類の中心的な存在で、就活生からの人気も高い一方、後述する「受託」というビジネスモデルの特徴を最も色濃く受ける分類でもあります。
通信インフラ業界
インターネットや携帯電話の回線など、情報をやり取りするための基盤を整備・運用する企業群です。通信キャリアだけでなく、その回線を支える設備工事や保守を担う企業も含まれます。社会インフラを支える仕事であるぶん、安定志向の就活生から選ばれやすい分類です。
インターネット・Web業界
Webサービスやスマートフォンアプリ、ECサイトの運営など、インターネットを介して消費者へ直接価値を届ける企業群です。変化のスピードが速く、新しい会社が次々と生まれる一方、事業として定着せず撤退していく例も少なくありません。
5分類だけでは見えないビジネスモデルの違い

ここまで紹介した5つの分類は、あくまで「どんな商品・サービスを扱っているか」による整理です。しかし就活生が本当に知っておきたいのは、その会社が「誰のために、どんな契約形態で」仕事をしているかという、ビジネスモデルの違いです。同じソフトウェア業界の企業でも、この視点で見ると働き方はまったく異なって見えてきます。
自社開発型。自社サービスを育てる仕事
自社でアプリやシステムを企画し、開発から運用、改善までを一貫して担う会社です。仕事の成果がそのまま自社の売上や利用者数に直結するため、エンジニアであっても企画段階から意見を求められる場面が多くなります。
裁量の大きさや、自分の仕事がサービスの成長に反映される手応えを得やすいのが自社開発型の魅力です。ただし採用人数は受託型の企業に比べて少なく、就職の難易度は上がりやすい傾向にあります。
受託開発・SES型。客先のシステムを作る仕事
顧客企業から依頼を受け、システムの開発や保守を請け負う会社です。SIerの多くやSES(システムエンジニアリングサービス)企業がここに当てはまります。案件ごとに携わるシステムや業界が変わるため、幅広い技術や業種の知識に触れられる点は強みです。
一方で、契約によっては客先に常駐して働く形態(客先常駐)も多く、自社の同僚と離れて働く期間が長くなる場合があります。配属先やプロジェクトが自分の意思だけでは選びにくいという声も、業界研究の場ではよく耳にする話です。
多重下請け構造とは。元請けから何次請けまで連なる商流
受託開発の世界を理解するうえで欠かせないのが「多重下請け構造」という言葉です。顧客から直接仕事を受注する元請け企業のもとに、一次請け、二次請け、三次請けと、複数の会社が連なって一つのシステムを作り上げていく商慣行を指します。
公正取引委員会が2022年6月に公表したソフトウェア業の下請取引等に関する実態調査報告書では、個人事業者として6次下請けの案件に技術者として参加した経験が報告されるなど、商流が何層にも重なる実態が明らかにされています。詳しくは公正取引委員会「ソフトウェア業の下請取引等に関する実態調査報告書」で確認できます。
階層が下になるほど、間に入る企業の取り分が差し引かれるぶん、条件面で不利になりやすいという指摘もあります。就職先を選ぶ段階でこの構造を知っておくと、「なぜこの会社は求人条件が良いのか、あるいは厳しいのか」を自分なりに読み解けるようになるはずです。
求人票やHPで見極める3つのチェックポイント
自社開発か受託・SESか、どちらのビジネスモデルに近い会社なのかは、就活生でも次の3点を確認すれば見当をつけられます。
- 事業内容の欄に「自社サービス」「自社プロダクト」と書かれているか、それとも「システム開発の受託」「客先常駐」と書かれているか
- 採用ページに実際のサービス名やアプリ名が具体的に紹介されているか
- 面接で「配属先はどのように決まりますか」「案件はどのくらいの頻度で変わりますか」と質問したときの答え方
この3点は、企業研究シートに書き込んでおくと、複数の企業を比較するときに役立ちます。
IT業界の主な職種。エンジニアだけではない仕事の広がり
IT業界と聞くとプログラミングをするエンジニアを思い浮かべる人が多いかもしれません。ですが実際の職種はもっと幅広く、文系出身者が活躍している職種も少なくないのが実情です。
エンジニア職(開発・インフラ)
システムやアプリケーションを設計・実装するエンジニアは、IT業界の中核を担う職種です。担当領域によって、アプリケーションを作るエンジニア、サーバーやネットワークを支えるインフラエンジニア、複数のシステムをつなぐ設計を担うエンジニアなど、さらに細かく分かれます。
ITコンサルタント
顧客企業の経営課題を分析し、ITを使った解決策を提案する職種です。技術知識に加えて、経営や業務プロセスへの理解も求められるため、文系・理系を問わず志望者の多い職種の一つといえます。
営業・カスタマーサクセス
自社製品やサービスを企業に提案する営業職、契約後も顧客の利用状況に寄り添い活用を後押しするカスタマーサクセス職も、IT業界を支える重要な役割です。技術そのものより、相手の課題を聞き取る力や、社内のエンジニアと連携する調整力が問われます。
バックオフィス・企画
人事や経理、広報、事業企画など、直接システムを作る役割ではなくとも会社の運営を支える職種も、当然ながらIT企業には存在します。急成長するIT企業ほど、こうした管理部門の体制づくりが後回しになりがちで、入社後に幅広い業務を任されるケースも見られるようです。
IT業界の現状と将来性。人材不足とDXの裏側
就活生がIT業界を検討する理由の一つに「将来性がありそう」という印象があるはずです。この印象を裏づけるデータとして、経済産業省がみずほ情報総研株式会社に委託して2019年3月に公表した「IT人材需給に関する調査」があります。
同調査では、IT需要が中位から高位で推移した場合、2030年には最大で約79万人のIT人材が不足すると試算されています。詳しくは経済産業省「IT人材需給に関する調査」調査報告書で公開されています。
この調査が公表されてから数年が経ちましたが、企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)の取り組みが広がるにつれ、IT人材への需要はむしろ強まっているというのが業界の共通認識といえるでしょう。裏を返せば、IT業界は今後もしばらくは「人を採りたい会社」が多い状態が続くと見てよさそうです。
一方で課題もあります。多重下請け構造については、先に紹介した公正取引委員会の調査をきっかけに、発注側と受注側の取引適正化を求める動きが強まっています。また技術の移り変わりが速い業界であるため、一度身につけたスキルに安住できず、学び続ける姿勢が長く求められる点も、就活の段階で理解しておきたい現実です。
IT業界に向いている人・今からできる就活準備

ここまで見てきた分類やビジネスモデルの違いを踏まえると、IT業界に向いている人の輪郭が見えてきます。あわせて、就活準備として今すぐ取り組めることも整理しておきましょう。
向いている人の特徴
IT業界で働く人に共通して見られる資質として、新しい技術や仕組みを面白がって学び続けられることが挙げられます。技術のトレンドは数年単位で移り変わるため、変化そのものを楽しめるかどうかは、長く働くうえで意外と大きな分かれ目になるものです。
また、システム開発は一人で完結する仕事ではありません。エンジニアと営業、顧客担当者など、立場の異なる相手と情報をすり合わせながら進める場面が多いため、専門用語を分かりやすく言い換えて伝えるコミュニケーション力も重宝されます。
就活準備で意識したい3つのこと
業界研究の段階では、次の3つを意識すると準備が進めやすくなります。
- 志望する会社が自社開発型か受託・SES型か(あるいはその中間か)を自分の言葉で説明できるようにする
- 気になる会社が実際に手がけているサービス名やプロジェクト名を、面接で話せる程度まで調べておく
- 「なぜIT業界か」だけでなく「なぜこのビジネスモデルの会社か」まで踏み込んで志望動機を組み立てる
この3点まで準備しておくと、面接官に「業界研究がよくできている」という印象を持ってもらいやすくなります。
よくある質問
- 文系出身でもIT業界に就職できますか
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できます。エンジニア職以外にも、営業やITコンサルタント、カスタマーサクセスなど、技術そのものより顧客理解やコミュニケーション力が重視される職種が数多くあります。入社後の研修でプログラミングの基礎から学べる制度を用意している企業も少なくありません。
- IT業界は激務というイメージがありますが実際はどうですか
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会社やビジネスモデルによって差が大きいというのが実情です。納期が固定された受託開発の案件では繁忙期に業務量が増えやすい一方、自社開発企業では開発のペースを自社で調整しやすい傾向があります。求人票の残業時間や有給消化率といった数値だけでなく、面接で実際の働き方を具体的に質問して確かめることをおすすめします。
- 自社開発と受託、就活生はどちらを選ぶべきですか
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どちらが優れているという単純な話ではありません。自社開発は裁量の大きさが魅力ですが選考倍率が高くなりがちで、受託・SESは幅広い案件経験を積みやすい一方、案件によって働く環境が変わりやすいという特徴があります。自分がどちらの環境でより力を発揮できそうか、この記事で紹介したチェックポイントをもとに考えてみてください。
まとめ
IT業界研究の第一歩として5つの分類を覚えることは有効ですが、そこで足を止めてしまうと、実際の企業選びで迷いが残ります。自社開発型か受託・SES型か、多重下請け構造のどのあたりに位置する会社なのか。この記事で紹介したビジネスモデルという視点を加えるだけで、同じ業界研究でも解像度がぐっと上がるはずです。
気になる企業を見つけたら、求人票や採用ページを、今日紹介した3つのチェックポイントで読み直してみてください。分類表だけを眺めていたときには見えなかった、その会社の素顔が見えてくるはずです。

