「広告の仕事は面白そうだけれど、夜遅くまで働く業界だと聞いて迷っている」。就職活動で広告会社を見ている学生から、こうした声を聞きます。業界の働き方について語られてきた話が多いぶん、何をどこまで確かめれば納得できるのかが分からなくなりやすいのだと考えられます。
ただ、労働時間の上限は業種を問わず法律で定められていて、広告会社だけが別扱いになっているわけではありません。そのうえで、会社ごとの実績は国の統計や企業が出す書類、そして応募者が求めれば示される仕組みとして、外から確かめられる形になっています。業界という大きなくくりで判断しなくてもよいということです。
この記事では、特定の会社名を挙げることはしません。制度と公開されている数字の読み方を、就活キャリア研究所の視点で順に整理します。適性があるかどうかや、どの会社がどのグループに属するかという話には踏み込まず、働き方の条件だけを扱います。
広告業界の働き方が職種名から見えない事情
会社を比べ始める前に、この業界の条件がどう決まるのかを押さえておくと、求人票の読み方が変わります。広告の仕事には、外からは見えにくい三つの事情があります。
統計上どの産業に入るかで見る数字が変わる
広告の会社を国の統計で探すとき、最初につまずくのが分類です。日本標準産業分類は統計法にもとづく統計基準として定められており、2026年9月時点では令和5年7月に告示された第14回改定の内容が使われています(総務省)。この分類で広告業は、大分類「学術研究、専門・技術サービス業」の中の中分類73に置かれています(総務省統計局)。
中分類73の説明は、主として依頼人のために広告に関する総合的なサービスを提供する事業所と、広告媒体のスペースまたは時間を媒体企業と契約して依頼人のために広告する事業所、という書き方になっています。日本標準産業分類の一般原則では、一つの事業所で複数の分類に当たる経済活動が行われている場合、その事業所の産業は主要な経済活動によって決まるとされています(総務省)。つまり「広告業界」と呼ばれている会社のうち、統計上この区分に入るのは広告の企画や媒体の取り扱いを主な仕事にしている事業所であって、印刷や映像制作、Webサイトの制作を主な仕事にしている事業所は別の区分に集計されます。公的な数字を当てるときは、応募先がどの機能を中心に据えているかを先に見定める必要があります。
発注する側と制作する側で立場が変わる
広告の仕事は、広告主、広告業者、広告制作業者という順に発注が流れていく形が一般的です。この流れの中でどの位置に立つかによって、一日の動き方が変わります。
公正取引委員会と中小企業庁は、令和8年2月以降、発注側である広告業者と受注側である広告制作業者との間の取引について集中的な調査を行い、その結果を令和8年6月29日に公表しました。新聞広告、雑誌広告、テレビ広告、インターネット広告、交通広告、屋外広告などの制作に関する取引が対象で、広告業者に対して71件の指導が行われています(公正取引委員会)。
公表された内容には、働き方に直結する指摘が並びます。口頭での発注が商慣習になっていることを理由に発注内容を明示していなかった事例、給付を受け取った日から60日を超える可能性がある支払制度を採っていた事例、発注後に内容が変わったのに無償で何度も修正や校正をさせていた事例などです。発注の条件が固まらないまま作業が進めば、無償のやり直しが重なり、制作側の働く時間にも表れると考えられます。
時間外労働の上限は業種を問わず同じ
時間外労働の上限は、法律で原則として月45時間、年360時間と定められています。臨時的な特別の事情があって労使が合意する場合でも、年720時間以内、休日労働を含んで複数月平均80時間以内、同じく休日労働を含んで単月100時間未満という範囲を超えることはできず、月45時間を超えられるのは年6か月までです。大企業には2019年4月から、中小企業には2020年4月から適用されており、違反には6か月以下の懲役または30万円以下の罰金が定められています(厚生労働省)。
ここが出発点です。広告の仕事だから上限が緩いということはありません。確かめるべきなのは規制の有無ではなく、応募先がその枠の中のどのあたりで働いているかという実績の数字です。
長く働けている会社に現れる4つの数字

ここからは、長く働けている会社に共通して現れる項目を挙げます。いずれも公開資料で確かめられるか、応募の場で数字として返ってくるはずのものです。
- 月平均の所定外労働時間を示せる
- 有給休暇の取得状況を数字で答えられる
- 平均勤続年数が平均年齢と釣り合っている
- 取引の条件を説明できる
月平均の所定外労働時間を示せる
この数字は、応募者の側から求めることができます。若者雇用促進法にもとづく職場情報の提供制度では、新卒者などを募集する企業に対して、応募を考えている人が就労実態に関する情報の提供を求められることになっており、その項目の一つが前事業年度の月平均所定外労働時間の実績です(厚生労働省)。
求め方も決められています。就職情報サイトや採用ページからいわゆるプレエントリーをするか、氏名、連絡先、学校名と在学年または卒業年月、情報提供を希望する旨をメールか書面で伝えるかのいずれかです。説明会や面接の場であれば、情報提供を希望する旨を口頭で伝えるだけでも求めることができます。尋ねてよいかどうかを迷う必要はなく、制度として用意された手続きです。
有給休暇の取得状況を数字で答えられる
同じ制度では、前事業年度の有給休暇の平均取得日数も情報提供の項目に入っています。返ってきた数字がどのあたりに位置するかは、国の調査と比べれば分かります。令和7年就労条件総合調査によると、労働者1人平均の年次有給休暇は付与日数18.1日に対して取得日数12.1日、取得率は66.9パーセントでした。広告業が属する学術研究、専門・技術サービス業では、付与18.4日、取得12.3日、取得率66.8パーセントとなっています(厚生労働省)。
休日の日数も同じ調査で確かめられます。1企業平均の年間休日総数は112.4日、労働者1人平均は116.6日で、企業の割合でみると年間休日総数が120日から129日の企業が37.3パーセント、100日から109日が27.9パーセントです。求人票に書かれた日数をこの分布に当てはめると、その会社がどのあたりにいるのかが見えてきます。
もう一つ、所定労働時間そのものも押さえておきたい数字です。同じ調査では、学術研究、専門・技術サービス業の1日の所定労働時間は1企業平均で7時間40分、週所定労働時間は38時間25分となっており、金融業、保険業の38時間12分に次いで短い部類に入ります。所定の時間が短いということは、実際の働き方の長さは所定外の部分で決まるということでもあります。
平均勤続年数が平均年齢と釣り合っている
長く働けるかどうかを一つの数字で見るなら、平均勤続年数が素直です。株式を公開している会社であれば、有価証券報告書の「従業員の状況」で確かめられます。企業内容等の開示に関する内閣府令は、内国会社が出す有価証券報告書を原則として第三号様式で作成すると定めており、その記載上の注意では、提出会社の従業員について、その数、平均年齢、平均勤続年数、平均年間給与を記載することになっています(e-Gov法令検索)。書類は金融庁の開示書類閲覧サイトで誰でも読めます(金融庁)。
比べる相手になるのが、令和7年賃金構造基本統計調査の数字です。学術研究、専門・技術サービス業の一般労働者は、平均年齢42.9歳、平均勤続年数12.1年で、賃金は男女計で44万0300円でした。これは産業別では電気・ガス・熱供給・水道業の44万4000円に次いで高く、最も低い宿泊業、飲食サービス業の27万7200円とは大きな開きがあります(厚生労働省)。
ただし、この44万0300円は平均年齢42.9歳の人たちの数字です。年齢階級で切ると、20歳から24歳は28万0100円、25歳から29歳は33万5800円、30歳から34歳は40万6600円となります。新卒の提示額を産業の平均と比べても意味がないので、自分の年齢に近い階級の数字を当てるのが正しい読み方です。
人の出入りの多さは、令和7年雇用動向調査で確かめられます。学術研究、専門・技術サービス業の入職率は12.9パーセント、離職率は11.7パーセントで、産業計の入職率14.7パーセント、離職率13.7パーセントをいずれも下回ります。一般労働者に限ると入職率11.1パーセント、離職率10.0パーセントです。一方、パートタイム労働者の離職率は26.7パーセントで、産業別では最も高くなっています(厚生労働省)。
取引の条件を説明できる
制作を担う立場の会社であれば、発注元との取引条件がそのまま働き方に響きます。公正取引委員会と中小企業庁の調査では、発注時に内容を明示するという義務が守られていない事例、修正や校正を何度求めるかという条件が発注時に定められていない事例が複数あったことが示されました(公正取引委員会)。
調査ではあわせて、取り組むべき事項も示されています。修正や校正に要する費用を代金に含めて発注する場合は、受け取る前の修正回数を何回まで含めるかをあらかじめ定めておく、といった形です。面接で「発注を受けるときに修正の回数を決めていますか」と尋ねたときの答え方は、その会社が自分たちの作業量を守れているかどうかを映します。発注する側に立つ会社であれば、同じ問いへの答えがそのまま取引先への姿勢を示すことになります。
応募前に広告会社を調べる3つの手順

気になる会社が絞れてきたら、応募する前に次の3つを済ませておくと、面接で尋ねる中身が具体的になります。いずれも無料で、会社に連絡を取らずに進められます。
応募先が統計上どの産業に入るのかを見定めます。広告の企画や媒体の取り扱いが中心なら中分類73の広告業です(総務省統計局)。ここが決まると、後で当てる統計が決まります。
上場している会社なら、金融庁の開示書類閲覧サイトで有価証券報告書を開き、「従業員の状況」から従業員数、平均年齢、平均勤続年数、平均年間給与を書き写します(金融庁)。上場していない会社は、次の手順で職場情報を探します。
ここまでで残った疑問が、面接で尋ねるべき質問です。手元に数字を置いてから尋ねれば、返ってくる説明が具体的かどうかも判断できます。なお、企業から提供された情報を他の用途に転用しないことは、この制度を使ううえでの前提とされています。
認定と公表の仕組みをどう使うか
国には、働き方の水準を満たした会社を認定する仕組みと、法令違反の事案を公表する仕組みの両方があります。どちらも広告業だけを対象にしたものではありませんが、読み方を知っていれば判断の材料が増えます。
ユースエール認定の基準を物差しにする
ユースエール認定は、若者の採用と育成に積極的で、雇用管理の状況が優良な中小企業を厚生労働大臣が認定する制度です。対象は常時雇用する労働者が300人以下の事業主で、認定要件には具体的な数字が並びます(厚生労働省)。
たとえば、直近3事業年度に新卒者などとして正社員に就職した人の離職率が20パーセント以下であること、前事業年度の正社員の月平均所定外労働時間が20時間以下で、かつ月平均の法定時間外労働が60時間以上の正社員が1人もいないこと、前事業年度の正社員の有給休暇の取得率が平均70パーセント以上または年間取得日数が平均10日以上であることなどです。
この制度は中小企業向けなので、大きな広告会社は対象になりません。ただし、ここに並んだ数字は「働きやすい会社」として国が線を引いた水準なので、規模にかかわらず応募先の数字を当てる物差しとして使えます。月平均の所定外労働時間が20時間を大きく超えているなら、その理由を尋ねる価値があります。
公表事案は制度として読む
厚生労働省と都道府県労働局は、労働基準関係法令に違反した疑いで送検した事案などを一定の期間ホームページに掲載しています。厚生労働省がまとめた一覧は、各都道府県労働局が公表した内容を集約したもので、令和8年8月31日に掲載された版は令和7年8月1日から令和8年7月31日までの公表分を収めています。都道府県労働局のページにも同じ形の一覧が置かれています(東京労働局)。
一覧には、企業や事業場の名称、所在地、公表日、違反した法令の条文、事案の概要が並びます。ここで大切なのは、載っていないことが安全を意味するわけではなく、載っていることが会社のすべてを表すわけでもない、という点です。掲載の有無を見るのではなく、応募先がどの法令のどんな義務を負う立場なのかを知るための資料として読むほうが役に立ちます。
広告業界への就職でよくある質問
最後に、広告会社を選ぶときによく寄せられる疑問を整理しておきます。
- 残業時間を面接で聞いても大丈夫ですか
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聞けます。若者雇用促進法の職場情報の提供制度では、前事業年度の月平均所定外労働時間の実績が情報提供の項目に含まれており、説明会や面接の場で情報提供を希望する旨を口頭で伝えるだけでも求めることができます(厚生労働省)。
- 広告業界の離職率は高いのですか
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産業全体で見ると高くはありません。令和7年雇用動向調査では、広告業が属する学術研究、専門・技術サービス業の離職率は11.7パーセントで、産業計の13.7パーセントを下回ります(厚生労働省)。ただし会社ごとの差は大きいので、応募先の数字を別に確かめてください。
- 年間休日は何日あれば多いほうですか
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令和7年就労条件総合調査では、1企業平均の年間休日総数は112.4日で、120日から129日の企業が37.3パーセントを占めます(厚生労働省)。求人票の日数をこの分布に当てはめれば、位置づけが分かります。
- 制作会社と広告会社では働き方が違いますか
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発注の流れの中での立場が違います。公正取引委員会と中小企業庁は令和8年6月29日、発注側の広告業者と受注側の広告制作業者との取引について集中調査の結果を公表し、広告業者に71件の指導を行ったことを明らかにしています(公正取引委員会)。
業界の評判ではなく続けられるかで選ぼう
広告の会社選びでは、扱う商品や手がけた仕事の印象に気持ちが動きやすくなります。ただ、入社後の生活を決めるのは、月平均の所定外労働時間、有給休暇の取得状況、人がどれだけ長く残っているか、そして発注の条件がどう決められているかという、書面で確かめられる部分です。
この記事で挙げた統計も有価証券報告書も職場情報の提供制度も、誰でも同じ手順でたどれるように用意されています。業界について語られてきた話を出発点にするのではなく、数字を一つずつ確かめ、自分が続けられる働き方に近い会社を選んでいきましょう。

