離職率の低い会社は本当に安心か|見極め方と数字の読み解き方

「離職率の低い会社」を探している人の多くは、この言葉を「ホワイト企業の目印」として期待しています。厚生労働省の調査でも離職率が低い産業と高い産業の差ははっきり出ており、業界選びの判断材料になるのは間違いありません。ただし、離職率という1つの数字だけを見て安心してしまうと、入社後に「聞いていた話と違う」と感じる場合もあります。この記事では公的統計に基づく最新の数字を整理したうえで、離職率が低くなる背景を3つのタイプに分けて読み解き、就活や転職の面接で法的な根拠を持って情報を引き出す方法まで紹介します。

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離職率の低い会社とはどのくらいの数字を指すのか

離職率とは、ある期間の始めに在籍していた常用労働者数に対して、その期間中に退職した人の割合を示す数値です。厚生労働省「雇用動向調査」では、1年間の在籍者数を分母に、同じ1年間の離職者数を分子にして算出しています。会社によって独自の集計方法で「離職率」を公表しているケースもあるため、比較するときは同じ調査・同じ期間の数字かどうかを確認する姿勢が欠かせません。

厚生労働省の令和6年雇用動向調査結果の概況によると、2024年の全産業平均の離職率は14.2%でした。前年の15.4%から1.2ポイント低下しており、入職率も同時に下がっているため、労働市場全体としては人の動きがやや落ち着いた1年だったといえます。志望企業や志望業界の離職率を調べたときは、まずこの14.2%という全産業平均を基準に、高いか低いかをおおまかに判断するとわかりやすくなります。

ここで注意したいのは、離職率は年による変動が大きい指標だという点です。景気や採用市場の状況によって1〜2ポイント程度は普通に動くため、単年の数字だけで一喜一憂せず、複数年の推移を見比べる習慣を持つと判断の精度が上がります。

産業別に見る離職率が低い業界と高い業界

同じ令和6年雇用動向調査では、産業別の離職率も公表されています。業界研究の出発点として、離職率が低い産業から順に見ていきます。

  1. 複合サービス事業(郵便局や協同組合など):離職率7.8%
  2. 金融業,保険業:離職率8.0%
  3. 電気・ガス・熱供給・水道業:離職率8.8%
  4. 鉱業,採石業,砂利採取業:離職率9.1%
  5. 製造業:離職率9.6%

反対に離職率が高いのは、宿泊業,飲食サービス業(25.1%)、サービス業のうち他に分類されないもの(20.3%)、生活関連サービス業,娯楽業(19.0%)、卸売業,小売業(15.1%)、不動産業,物品賃貸業(13.5%)の順でした。低い側の産業には、電気・ガス・水道のような社会インフラ型の事業や、製造業のような設備投資が大きく人材育成に時間をかける事業が並んでいます。高い側には、シフト制の対人サービスや、パートタイム労働者の比率が高い業界が目立ちます。

ただし、このランキングをそのまま「良い業界・悪い業界」の序列として使うのは早計です。次の章で、離職率の低さが生まれる背景を分けて考えます。

離職率が低い会社が必ずしも安心とは言えない3つの背景

離職率が低い理由を好待遇型・抜けにくい型・受け皿薄い型の3タイプに分けて比較したインフォグラフィック

離職率が低いという結果は同じでも、そこに至る理由は一つではありません。数字の裏側にある背景を、大きく3つのタイプに分けて考えると、企業研究の解像度が上がります。

好待遇・エンゲージメント型

給与水準や評価制度、働き方の柔軟性が整っていて、社員が積極的に「辞める理由がない」と感じているタイプです。求人サイトの口コミや説明会での社員の話し方に具体性があり、待遇面の説明にも具体的な根拠が伴っている場合は、このタイプである可能性が高くなります。

抜けにくい構造型

年功序列の給与カーブが強く、勤続年数が長いほど転職市場での評価が下がりやすい業界では、社員が「今さら動くと条件が下がる」と感じて残り続けることがあります。この場合、離職率の低さは満足度の高さというより、転職コストの高さを反映している面があります。地方に単一の主要な雇用先しかない事業所などでも、似た構造が生じやすくなります。

受け皿が薄い型

業界そのものの企業数や求人数が少なく、転職しても似た条件の求人にほとんど出会えないために、見かけ上定着しているタイプです。ニッチな専門領域や、特定地域に事業所が集中している業界で起こりやすい傾向があります。

では、この3つをどう見分ければよいのでしょうか。決め手になるのは、離職率という結果の数字だけでなく、「なぜその数字になっているのか」を説明できる材料を自分で集めることです。次の章から、その具体的な調べ方と、面接で聞いても不利にならない質問の仕方を順番に見ていきます。

新卒者が見るべきは全体離職率でなく3年以内離職率

20代の男女がノートパソコンと資料を見比べながら離職率のデータを確認している様子

ここまで紹介してきた14.2%という数字は、あらゆる年齢層・勤続年数の社員を含めた全体の離職率です。就活生や第二新卒として企業を比較する場合は、これとは別に「新規学卒就職者の3年以内離職率」を確認したほうが、自分の状況に近い判断材料になります。

厚生労働省が公表している新規学卒就職者の離職状況によると、直近で公表されている令和4年3月卒業者の3年以内離職率は、大学卒が33.8%、高校卒が37.9%でした。いずれも前年度より1ポイント前後低下していますが、それでも大学卒で3人に1人強、高校卒で4割近くが3年以内に最初の勤め先を離れている計算です。全体離職率の14.2%とは前提が異なる数字なので、この2つを混同しないよう注意してください。

業種別に見ると、大学卒の3年以内離職率が高いのは、宿泊業,飲食サービス業(55.4%)、生活関連サービス業,娯楽業(54.7%)、教育,学習支援業(44.2%)、医療,福祉(40.8%)、小売業(40.4%)の順でした。高校卒でも同じ業種が上位に並び、宿泊業,飲食サービス業では64.7%に達しています。全体離職率のランキングと見比べると、対人サービス系の業種が新卒の早期離職でも上位に来やすいという傾向が重なって見えてきます。

逆にいうと、全体離職率が低い業界であっても、新卒に限った定着状況までは同じ調査からは読み取れません。志望業界を絞り込む際は、全体の数字と新卒の数字の両方をセットで確認する意識を持つとよいでしょう。

離職率を自分で調べる具体的な方法

公的統計は業界全体の傾向をつかむのに役立ちますが、実際に志望する1社ごとの数字までは教えてくれません。個別企業の状況を調べるには、次の3つの方法を組み合わせるのが現実的です。

STEP1

就職四季報などの刊行物で3年後離職率を確認する
東洋経済新報社が発行する就職四季報には、多くの掲載企業について3年後離職率と前年分の推移が並記されています。数字が悪化・改善どちらの方向に動いているかを2年分見比べると、単年のブレなのか傾向なのかを判断しやすくなります。この項目が「NA(データなし)」になっている企業は、同業他社と比べたうえで、開示していない理由を面接で確認する材料にできます。

STEP2

有価証券報告書や公的データベースで定着状況を確認する
上場企業であれば、有価証券報告書の「従業員の状況」に平均勤続年数や平均年齢が記載されています。また、常時雇用する労働者が301人以上の企業は女性活躍推進法に基づき情報公表が義務づけられており、女性の活躍推進企業データベースでは「男女の平均継続勤務年数の差異」などの項目を企業ごとに検索できます。離職率そのものではありませんが、勤続年数の長さは定着状況を読み解く有力な補助線になります。

STEP3

法律上の根拠を持って企業に直接尋ねる
開示情報だけでは足りない部分は、選考の場で直接質問する方法があります。次の章で、この質問には実は法的な後ろ盾があることを説明します。

面接で聞いても不利にならない法的根拠のある質問の仕方

「離職率を面接で聞いたら印象が悪くなるのでは」と身構える人は少なくありません。しかし、新卒者等を対象とした募集を行う企業に関しては、青少年の雇用の促進等に関する法律(若者雇用促進法)という法律上の根拠があり、応募者が求めた場合の情報提供は努力義務ではなく企業側の義務になります。

厚生労働省の職場情報の提供制度の説明によると、応募者から求めがあった場合、企業は次の3つの類型それぞれから1つ以上、合計3つ以上の情報を提供しなければなりません。

  1. 募集・採用に関する状況(直近3年間の採用者数・離職者数など)
  2. 労働時間等に関する状況(平均残業時間、有給休暇の平均取得日数など)
  3. 職業能力の開発・向上に関する状況(研修制度、メンター制度の有無など)

さらに、ハローワークに新卒者向け求人を出す企業は「青少年雇用情報シート」の提出が求められており、この中にも直近3年間の新卒採用者数と離職者数を記載する欄があります。加えて若者雇用促進法には、こうした情報提供を求めたことを理由に応募者を不利益に取り扱ってはならないという保護規定も定められています。

つまり、面接や説明会で「直近3年間の新卒の採用者数と離職者数を教えていただけますか」と尋ねることは、単なるマナー違反すれすれの質問ではなく、制度上想定されたやり取りだといえます。質問の仕方としては、離職率という数字を直接求めるより、この3類型のどれかに沿って具体的に尋ねるほうが、担当者も答えやすくなります。この法律が対象とするのは新卒者等の募集を行う企業である点には留意し、中途採用の選考では、口コミサイトや公表資料の内容を踏まえたうえで、定着状況について感触を尋ねる聞き方に切り替えるとよいでしょう。

離職率が低い会社で働くメリットとデメリット

離職率の低さは万能の指標ではなく、働く人の価値観によって受け止め方が変わる面もあります。就職活動や転職活動の軸を決めるうえで、両面を整理しておきます。

メリットとして挙げられるのは、指導役や上司が長く在籍しているため、育成の仕組みが引き継がれやすい点です。同じメンバーで長く働くことで、業務の背景や過去の経緯を知っている人が周囲に多くなり、相談しやすい環境ができやすくなります。また、ライフイベントに合わせた働き方の前例が社内に蓄積されている場合も多く、将来設計を立てやすいという声もよく聞かれます。

一方でデメリットとしては、ポストが空きにくく昇進のペースが緩やかになりやすい点が挙げられます。人の入れ替わりが少ないぶん、新しい視点や刺激に触れる機会が限られると感じる人もいます。おそらく、この感じ方は本人がどれだけ「安定」と「変化」のどちらを求めているかによって変わってくるでしょう。自分がどちらの環境で力を発揮しやすいかを、これまでの経験から振り返っておくと、企業選びの軸がぶれにくくなります。

よくある質問

最後に、離職率の低い会社を調べるときに寄せられやすい疑問をまとめます。

離職率0%の会社は存在しますか

小規模な事業所や新設の事業所では、母数となる在籍者数自体が少ないため、たまたま1年間離職者がゼロで離職率0%になることはあります。ただし、これは会社の規模が小さいことによる統計上の振れ幅である場合も多く、単年の0%という数字だけで安心材料にするのは避けたほうが無難です。複数年の推移や従業員数の規模を合わせて確認してください。

中小企業は離職率の公表義務がないのでしょうか

有価証券報告書による開示は上場企業が対象で、女性活躍推進法に基づく情報公表の義務も常時雇用労働者301人以上の企業が中心です。そのため、非上場の中小企業では公的な開示情報が少なく、説明会や面接で直接尋ねる比重が大きくなります。この場合こそ、若者雇用促進法に基づく情報提供の求めが役立ちます。

離職率と平均勤続年数、どちらを重視すべきですか

離職率はその1年間の動きを示す指標で、平均勤続年数は在籍者の積み重ねを示す指標という違いがあります。片方だけでは業界特性や年齢構成の影響を受けやすいため、可能であれば両方を突き合わせ、離職率が低く平均勤続年数も長いかどうかを確認すると、判断の精度が上がります。

離職率の低い会社は、業界研究の入り口としては確かに有効な手がかりです。ただし、その数字がどのタイプの低さなのかを見極め、新卒であれば3年以内離職率という別の物差しも重ね、最終的には制度に裏付けられた質問で自分の目でも確かめる。この一連の流れを踏めば、数字に振り回されることなく、自分に合った職場を選ぶための材料がそろってくるはずです。

この記事の著者情報

株式会社ネット風評被害対策 代表取締役 内村淳

ネット風評被害対策の専門家として15年以上の実績を持つ。
風評被害誹謗中傷対策・サジェスト対策・逆SEO対策・SNS炎上対応など、企業のWebリスク解決を累計10,000社以上支援。
ネット誹謗中傷対策に特化した法律事務所に1年間従事し、法的観点からの対応知見を習得。IT技術と法的アプローチの双方に携わってきた経験を持つ。
あらゆるネット風評被害対策支援に加え、企業向けコンサルティングや同業他社へのサービス提供も行う。
現在、日々進化するAI検索エンジンのアルゴリズムを徹底解析し、AI検索時代に適応した次世代の風評対策に注力している。

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