就活の企業研究で「旅行会社 大手」と検索すると、JTB、HIS、阪急交通社といった名前がすぐに並びます。ただ、社名を並べられるだけでは、面接で「なぜこの会社を志望するのか」を語ることはできません。旅行業界の企業研究で本当に押さえておきたいのは、どの会社が大手かという事実そのものよりも、なぜその会社が大手とされているのか、そして各社の事業がどう違うのかという視点です。
この記事では、観光庁が毎年公表している旅行取扱額のデータをもとに、2025年度時点で取扱額上位となる旅行会社5社の実像を整理します。あわせて、旅行会社・旅行代理店・OTAというビジネスモデルの違いや、ランキングの数字だけでは見えてこない業界の構造変化についても取り上げます。
「大手旅行会社」はどんな基準で語られているのか
「大手旅行会社」という言葉自体には、法律上の明確な定義があるわけではありません。実際に業界研究の場でこの言葉が使われるとき、多くは観光庁が毎年公表している「主要旅行業者の旅行取扱状況調査」の取扱額(旅行取扱高)ランキングを指しています。この調査は国内の主要旅行業44社・グループを対象にしており、業界研究をする就活生にとっては、企業の採用ページ以上に客観的な一次情報だといえます。
ここでいう取扱額とは、募集型企画旅行や手配旅行として顧客から預かった旅行代金の総額に近い数字であり、必ずしも各社の利益や収益性を示す指標ではありません。従業員数や店舗網の広さ、グループ全体の資本規模で大手を語る見方もあり、どの指標を使うかによって順位の見え方は変わってきます。この点は後ほど改めて触れます。
観光庁の旅行取扱高調査が業界研究の一次情報
観光庁の調査は年度ごとに更新され、各社の取扱額と前年比の伸び率が公表されます。就活情報サイトの記事は作成時点の数字をもとにしているため、選考が本格化するタイミングでは情報が古くなっている場合があります。面接直前には観光庁や業界紙の最新発表を一度自分で確認しておくと、企業研究の説得力が一段変わります。
旅行会社・旅行代理店・OTAのビジネスモデルの違い
「旅行会社」という言葉は、実務上いくつかの異なるビジネスモデルをまとめて指すことがあります。自社で旅行商品を企画・造成し、パンフレットや広告を通じて販売する会社を旅行会社と呼ぶ場面が多い一方、他社が企画した旅行商品を窓口で代理販売する会社は旅行代理店と呼び分けられることがあります。ここに、店舗を持たずインターネット上で予約を完結させるOTA(オンライン・トラベル・エージェント)という業態が加わり、同じ「旅行」を扱う会社でも収益構造や必要な組織体制はかなり異なります。
旅行業法が定める登録区分と業務範囲
この違いをより正確に理解する手がかりが、旅行業法上の登録区分です。同法では、業務の範囲に応じて第1種旅行業、第2種旅行業、第3種旅行業、地域限定旅行業、旅行業者代理業という区分が設けられています。第1種旅行業者は海外・国内の募集型企画旅行から手配旅行まで、旅行業務のほぼすべてを取り扱えます。第2種旅行業者は海外の募集型企画旅行を自ら実施することはできませんが、国内の募集型企画旅行や海外・国内の受注型企画旅行、手配旅行を扱えます。第3種旅行業者は募集型企画旅行を自ら実施できず、受注型企画旅行や手配旅行が業務の中心になります。そして旅行業者代理業は、特定の1社と代理契約を結び、その会社の商品だけを代理販売する立場です。
では、なぜこの区分が就活の企業研究に関係するのでしょうか。第1種旅行業者として海外パッケージツアーまで自社で企画している会社と、特定の1社の代理業に留まる会社とでは、必要とされる商品企画力や仕入れ交渉のスキル、組織の規模がまったく違うからです。志望企業がどの区分に該当するかを確認するだけで、実際の仕事内容をより具体的にイメージしやすくなります。
2025年度 大手旅行会社5社の取扱額ランキング

観光庁の調査をもとにした2025年度(2025年4月〜2026年3月)の会社別取扱額ランキングでは、上位5社は次の顔ぶれになりました。
- JTB(7社) 1兆3784億3152万円(前年比5.1%増)
- エイチ・アイ・エス(HIS・6社) 3819億8591万円(前年比6.2%増)
- 阪急交通社(2社) 3709億3189万円(前年比11.1%増)
- 日本旅行(4社) 3632億8856万円(前年比0.7%増)
- KNT-CTホールディングス(4社) 3515億4880万円(前年比5.3%増)
まず目を引くのは、JTBの取扱額が2位のHISの3倍以上にのぼる点です。JTBは業界の中でも別格の規模を持つ最大手といって差し支えありません。一方で2位以下の4社は3500億円から3800億円台に収まっており、僅差で順位が入れ替わる関係にあります。実際、5社すべてが前年から取扱額を伸ばしており、伸び率でみると阪急交通社の11.1%増が最も高く、日本旅行の0.7%増が最も緩やかでした。数字が近い会社同士は、翌年度の調査で順位が逆転することも十分にあり得ます。
大手5社それぞれの強みと事業の特徴
取扱額の規模を押さえたら、次はそれぞれの会社が何を強みにしているのかを見ていきます。同じ「大手旅行会社」という括りでも、成長を支えている事業領域や資本関係は会社ごとにまったく異なります。
JTBは訪日旅行とグローバル事業がけん引する最大手
JTBは2026年3月期の連結決算で売上高が前年比5.6%増の1兆1332億9900万円となり、3年連続で売上高1兆円を超えました。増収増益を支えたのは、訪日外国人旅行の需要回復と、法人向けの海外拠点を活用したグローバル旅行事業です。個人向けのパッケージツアーだけで最大手になっているわけではなく、法人営業やMICE(会議・研修・イベントなどの企業需要)、海外現地法人といった複数の事業の積み上げで規模を維持している点が、他社との大きな違いです。
HISは海外旅行に強みを持つが事業構成は変化を続けている
HISは店舗網とオンライン販売を組み合わせ、個人向けの海外パッケージツアーに強みを持つ会社として知られています。企業研究の場面で意外と見落とされがちなのが、事業構成の変化です。HISは2010年に長崎県のテーマパーク、ハウステンボスを買収して再建に取り組みましたが、2022年8月に運営会社の株式66.7%を投資ファンドへ売却しており、現在はテーマパーク運営を主力事業として抱えていません。数年前の記事や書籍の情報だけで「HIS=ハウステンボス」と説明してしまうと、面接で最新の理解が伴っていないと受け取られかねません。
阪急交通社はトラピックスブランドのメディア販売に強い
阪急交通社は、阪急阪神ホールディングスの完全子会社として、パンフレットや新聞広告を通じて集客する「メディア販売型」の募集型企画旅行に強みを持っています。主力ブランドの「トラピックス」に加え、個人旅行向けの「e-very」や、企業・学校向けの団体旅行も手がけており、鉄道会社を中核とする阪急阪神グループの中で旅行事業を担う位置づけです。2025年度の取扱額が5社の中で最も高い伸び率を記録した背景には、団体旅行やインバウンド需要の回復が影響していると考えられます。
日本旅行はJR西日本グループとして鉄道連携の商品を展開
日本旅行は日本で最初に設立された旅行会社であり、2002年12月の第三者割当増資を経て西日本旅客鉄道(JR西日本)の連結子会社になりました。「赤い風船」というブランドで知られるパッケージ旅行に加え、JR路線を活用した商品開発を得意としています。純粋な旅行専業会社というより、鉄道会社グループの一員として旅行事業を担っている点が、他の4社との資本関係上の違いです。
KNT-CTホールディングスは近畿日本ツーリストとクラブツーリズムの持株会社
KNT-CTホールディングスは、店舗での相談やカウンター販売を中心とする近畿日本ツーリストと、新聞広告や会員誌を通じたメディア販売に強いクラブツーリズムという、性格の異なる2つの事業会社を束ねる持株会社体制を2013年1月からとっています。さらに2027年4月をめどに、クラブツーリズム、近畿日本ツーリスト、近畿日本ツーリストブループラネットの3社を統合し、1社にまとめる基本方針が発表されています。ここで重要なのは、大手旅行会社の組織体制は今この瞬間も動いているという事実です。エントリーシートの提出時点で調べた会社概要が、入社時には別の組織図になっている可能性も想定しておく必要があります。
取扱額ランキングだけで大手旅行会社を語れない理由

ここまで取扱額という一つの物差しで5社を並べてきましたが、この数字だけを根拠に企業研究を終えるのは危険です。理由は大きく2つあります。
1つ目は、取扱額が旅行取引の規模を示す指標であり、利益率や社員一人あたりの生産性を示すものではないという点です。募集型企画旅行を大量に扱えば取扱額は伸びますが、薄利多売の構造であれば収益性は必ずしも高くありません。働きやすさや年収水準を知りたいのであれば、有価証券報告書や採用ページの説明会、社員インタビューなど、取扱額とは別の情報源にあたる必要があります。
2つ目は、旅行事業が親会社にとってどんな位置づけにあるかという視点です。日本旅行はJR西日本グループ、阪急交通社は阪急阪神ホールディングスグループの一員であり、旅行専業ではなく鉄道会社グループの一事業として旅行を担っています。旅行事業単体の成績だけでなく、グループ全体の経営方針が現場の投資判断や人員配置に影響する点は、就活生が見落としやすい部分です。逆にJTBやHIS、KNT-CTホールディングスのように旅行事業そのものが本業の会社では、旅行需要の増減が経営全体に直接跳ね返ってきます。同じ「大手旅行会社」という言葉でも、会社が置かれている立場はこれほど違うのです。
- 旅行会社と旅行代理店はどう違うのですか?
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厳密な使い分けが法律で決まっているわけではありませんが、実務上は自社で旅行商品を企画・造成する会社を旅行会社、他社の商品を窓口で代理販売する会社を旅行代理店と呼ぶことが多くなっています。旅行業法上は登録区分によって扱える業務範囲が定められており、第1種旅行業者は募集型企画旅行を含む幅広い業務を扱える一方、旅行業者代理業は契約した1社の商品だけを代理販売します。同じ「旅行会社」という言葉でも、法律上の立場は会社によって異なると理解しておくとよいでしょう。
- 大手5社の顔ぶれは毎年同じなのですか?
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顔ぶれ自体は大きく変わりにくいものの、順位は年度ごとの実績次第で入れ替わります。2025年度は阪急交通社が前年比11.1%増と5社の中で最も伸び率が高く、2位のHISから5位のKNT-CTホールディングスまでは300億円ほどの差に収まっています。企業研究では、その年の最新データを確認する姿勢が欠かせません。
- 取扱額が大きい会社ほど、働きやすい就職先なのですか?
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取扱額の大小と、働きやすさや年収水準が直接連動するとは限りません。取扱額は募集型企画旅行などの取引規模を示す指標であり、利益率や労働環境を測るものではないためです。説明会や有価証券報告書、OB・OG訪問といった別の情報源と合わせて確認することをおすすめします。
大手旅行会社の業界研究を次のアクションにつなげる
ここまで整理してきた内容を、実際の企業研究にどうつなげればよいのでしょうか。おすすめしたいのは、次の3つのステップで情報を積み上げていく進め方です。
観光庁の最新の取扱状況調査で、志望企業の規模と前年からの伸び率を確認します。伸びているのか横ばいなのかで、その会社が今どんな局面にあるのかが見えてきます。
各社の事業内容を比較し、法人向けなのか個人向けなのか、店舗中心なのかオンライン中心なのかといった強みの違いを、自分の言葉で説明できるようにしておきます。
有価証券報告書やコーポレートサイトのニュースリリース、採用ページを確認し、組織再編や新規事業など、記事執筆時点よりも新しい動きが出ていないかをチェックします。
大手旅行会社という括りは、就活生にとって業界研究の入り口としてはわかりやすい反面、そこで思考を止めてしまうと表面的な理解にとどまります。取扱額という数字の裏にある事業構成や資本関係、そして今も進行している業界再編の動きまで見ておくと、志望動機の説得力は大きく変わってくるはずです。

