「飲食業界は、どこも休みが少なくて離職も多い」。求人を眺めている方から、そんな前提で話が始まることがあります。長時間営業の店を思い浮かべれば、そう受け止めるのも無理はありません。
たしかに統計を見ると、この業界の離職率は産業のなかで高いほうに位置しています。しかし、それは業界全体を均した数字であって、個々の企業の話ではありません。そして企業ごとの差は、国が毎年公表している調査と、求人票の読み方を組み合わせれば、応募の前にかなりの部分まで絞り込めます。
この記事では、働きやすい飲食企業に共通する見どころと、それを公的な統計や制度で確かめる方法を、就活キャリア研究所の視点で整理しました。統計の名前と参照先まで示しますので、気になる企業があれば同じ手順でたどってみてください。
飲食業界の会社選びで判断を誤りやすい場面
企業を絞り込む前に、この業界の募集情報がどういう作られ方をしているのかを押さえておくと、読み飛ばしがちな欄に目が向きます。
業界の平均値を企業の評価に持ち込んでしまう
統計で示される離職率や休日数は、あくまで産業全体を集計した数字です。同じ「宿泊業,飲食サービス業」に分類される企業でも、居酒屋のチェーンと社員食堂の受託会社では営業時間も休日の作り方も違います。平均値は自分が見ている企業の位置を測るものさしであって、その企業の評価そのものではありません。
統計の分類には宿泊業も含まれている点にも注意が必要です。飲食だけを取り出した数字ではないため、比べるときは「宿泊も含んだ大きな分類の値」と受け止めておくのが正確です。
年間休日の数え方が企業ごとに違う
「年間休日105日」と書かれていても、その内訳がシフト制の公休だけなのか、夏季休暇や年末年始の休みを含んでいるのかは、記載だけでは判断できません。シフト制の職場では祝日が休みになるとは限らないため、暦の上の休日とずれが生まれます。数え方を尋ねると、その企業の管理の丁寧さも同時に見えてきます。
国の調査でいう年間休日総数も、週休や国民の祝日、年末年始休暇、夏季休暇などを合計したもので、年次有給休暇は含みません。企業の数字を比べるときは、同じ数え方かどうかを先にそろえる必要があります。
給与の総額に固定残業代が含まれている
提示された月給が高く見えても、そこに何時間分かの残業代があらかじめ組み込まれていることがあります。含まれている時間数と、それを超えたときの扱いを確かめないままだと、入社後の手取りの感覚が想像と食い違います。
固定残業代という言葉が使われていないこともあります。名称にかかわらず、一定時間分の時間外労働や休日労働、深夜労働に対して定額で支払われる割増賃金は、すべて同じ扱いです。この点については、国が求人の表示方法を具体的に示しています。
働きやすい飲食企業に共通する見どころ

説明会や面接の印象だけでは測りにくい部分も、決まった項目に注目すれば輪郭がつかめます。ここでは代表的な見どころを挙げ、そのうち数字で確かめられる4つを詳しく取り上げます。
- 離職率を産業の平均と並べて示せる
- 年間休日の数え方を説明できる
- 固定残業代の内訳が3点そろっている
- 店舗の営業時間とシフトの組み方が具体的
- 労働関係法令の違反で公表されていない
- 休憩と休日の取り方が書面で示される
離職率を産業の平均と並べて示せる
厚生労働省の令和7年雇用動向調査によると、2025年1年間の宿泊業,飲食サービス業の離職率は23.7%、入職率は27.8%でした。産業計の離職率13.7%、入職率14.7%と比べると、人の出入りが大きい業界だと分かります(厚生労働省)。この数字を手元に置いておけば、企業から示された離職率が業界の平均より上か下かを、その場で判断できます。
年間休日の数え方を説明できる
厚生労働省の令和7年就労条件総合調査では、2024年1年間の年間休日総数の1企業平均は112.4日、労働者1人平均は116.6日でした(厚生労働省)。企業規模別では1,000人以上が117.7日、30人から99人が111.2日と開きがあります。募集要項の日数を、この平均と規模別の数字の両方に照らすと、位置づけがはっきりします。
分布も見ておくと判断しやすくなります。同じ調査では、年間休日総数が120日以上129日以下の企業が37.3%、100日以上109日以下が27.9%、110日以上119日以下が21.4%でした。105日という記載が業界に多いのは、この下のほうの層に当たります。
固定残業代の内訳が3点そろっている
若者雇用促進法に基づく指針では、固定残業代を採用する場合、募集要項や求人票に、固定残業代を除いた基本給の額、固定残業代に関する労働時間数と金額等の計算方法、固定残業時間を超える時間外労働・休日労働・深夜労働に対して割増賃金を追加で支払う旨、という3つすべてを明示することとされています(厚生労働省)。3点のうちどれかが抜けている求人は、まずその点を質問の入口にできます。
店舗の営業時間とシフトの組み方が具体的
営業時間の長さそのものより、開店前の仕込みと閉店後の片づけを含めて何人でどう回しているかが、働き方を左右します。何週間先までシフトが決まるのか、希望休はいつまでに出すのか、急な欠員が出たときに誰が入るのか、そして店長がシフトに入る前提で人数が組まれていないか。この4つを尋ねると、店舗運営の実際が伝わってきます。曖昧な返答しか得られない場合は、慎重に判断したほうが安全です。あわせて、休憩をどの時間帯に何分取れているのかも確かめておきたい点です。忙しい時間帯が長い店では休憩が形だけになりやすく、それが日々の疲れの差になって表れます。
統計が示す飲食業界の離職と休日
業界の位置を正しくつかんでおくと、企業から示された数字の意味が読み取れます。ここでは厚生労働省の2つの調査から、比較の基準になる数字を並べます。
離職率は産業別で最も高い水準にある
令和7年雇用動向調査を就業形態別にみると、一般労働者の離職率は宿泊業,飲食サービス業が21.5%で産業別の最上位、次いでサービス業(他に分類されないもの)が20.3%でした。入職率も同じく宿泊業,飲食サービス業が24.4%で最も高くなっています(厚生労働省)。一般労働者の産業計は入職率12.0%、離職率11.4%ですから、およそ2倍の開きがあります。
ここで視点を変えてみましょう。同じ調査で、2025年に宿泊業,飲食サービス業へ入職した人は1,220.6千人と全産業で最も多く、離職者数1,042.7千人を上回っています。出ていく人が多い一方で、入ってくる人はそれ以上に多い。そういう構造の業界だという読み方ができます。
有給休暇の取得率は産業別で最も低い
令和7年就労条件総合調査によると、2024年1年間の年次有給休暇の取得率を産業別にみると、電気・ガス・熱供給・水道業が75.2%で最も高く、宿泊業,飲食サービス業が50.7%で最も低くなっています(厚生労働省)。労働者1人平均の付与日数は15.9日、取得日数は8.0日で、いずれも全産業の18.1日・12.1日を下回ります。全体の取得率は66.9%です。
付与日数そのものが少ないという点も見逃せません。取得率が低いだけでなく、そもそも与えられている日数が全産業平均より2日ほど少ないため、実際に休める日数の差はさらに開きます。
週の所定労働時間は産業別で最も長い
同じ調査で週所定労働時間を産業別にみると、金融業,保険業が38時間12分で最も短く、宿泊業,飲食サービス業が40時間02分で最も長くなっています。1企業平均は39時間24分です(厚生労働省)。1日あたりで見ても、宿泊業,飲食サービス業は7時間53分で最も長く、1企業平均の7時間49分を上回っています。1週間では小さな差ですが、年間に直せば数十時間の違いになります。募集要項の所定労働時間の欄は、数字が小さいぶん見落とされがちな項目です。
残業の上限と公表の仕組みを知っておく
働き方に関わるルールと、それを守らなかった企業がどう扱われるのかを知っておくと、求人票の記載が法令に照らしてどうなのかを自分で判断できます。
時間外労働には罰則つきの上限がある
時間外労働の上限は原則として月45時間・年360時間とされ、臨時的な特別の事情があって労使が合意する場合でも、年720時間以内、複数月平均80時間以内(休日労働を含む)、月100時間未満(休日労働を含む)を超えることはできません。これに違反した場合には、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金が科されるおそれがあります(厚生労働省)。大企業には2019年4月から、中小企業には2020年4月から適用されています。
この上限を知っていると、求人票の「みなし残業60時間」といった記載が何を意味するのかが分かります。原則である月45時間を超えられるのは、労使が特別の事情を定めて合意した月に限られ、その回数にも制限があります。年に何回まで見込まれているのかは、応募前に確かめておきたい点です。
法令違反の事案は労働局が公表している
都道府県労働局は、労働基準関係法令違反に係る公表事案として、企業・事業場の名称、所在地、公表日、違反した法条、事案の概要を一覧の形で公開しています(東京労働局)。ほかの都道府県労働局も同じ名称のページを持っているため、志望する企業の本社や店舗がある地域の労働局を確かめられます。
一覧には、労働基準法第24条にあたる賃金の未払いや、労働安全衛生法に基づく措置を怠った事案などが、違反した条文とともに並びます。どの法律のどの条文に触れたのかまで書かれているため、事案の重さを自分で読み取れます。
気をつけたいのは、この一覧が企業の良し悪しを格付けしたものではないという点です。掲載されるのは送検に至った事案などに限られ、掲載期間にも区切りがあります。載っていないことが安全の証明にはならず、載っている場合は事案の中身を読む。この2つをあわせて持つ必要があります。
求人票と公的サイトを見比べる調べ方

志望先が絞れてきたら、応募の前に次の3つの段階をたどってみてください。順番どおりに進めると、面接で聞くべきことが自然に絞られます。
面接で、年間休日の内訳、固定残業代の3点の内訳、直近の離職率、シフトの決まり方の4つを尋ねます。固定残業代については、基本給の額、何時間分でいくらか、超えた分が別途支払われるかを、書面で確かめておきたいところです(厚生労働省)。数字が即答されるか、後日回答になるか、答えが返ってこないか。その反応自体が判断材料になります。
飲食業界の就職・転職でよくある質問
- 飲食業界の離職率はどのくらいですか
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厚生労働省の令和7年雇用動向調査では、2025年1年間の宿泊業,飲食サービス業の離職率は23.7%でした(厚生労働省)。産業計は13.7%です。ただし同じ調査で入職率は27.8%と離職率を上回っており、人が減り続けている業界という意味ではありません。なお、この分類には宿泊業も含まれています。
- 年間休日は何日あれば多いほうですか
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令和7年就労条件総合調査では、2024年1年間の年間休日総数の1企業平均は112.4日でした(厚生労働省)。企業規模が大きいほど日数も多く、1,000人以上では117.7日です。この平均を基準に、応募先の規模と見比べてみてください。
- 固定残業代がある企業は避けるべきですか
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一概には言えません。計算の方法が示され、超えた分が別途支払われる仕組みになっていれば、収入が読みやすくなる面もあります。国の指針では、基本給の額、労働時間数と金額等の計算方法、超過分を追加で支払う旨の3点を明示することとされているため(厚生労働省)、この3点がそろっているかで判断してください。
- 法令違反をした企業はどこで確認できますか
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都道府県労働局が労働基準関係法令違反に係る公表事案を公開しており、企業・事業場の名称、所在地、違反した法条、事案の概要が一覧になっています(東京労働局)。掲載されるのは送検された事案などに限られ、掲載期間にも区切りがあるため、載っていないことをもって問題がないと決めることはできません。見つかった場合は、違反した条文と事案の概要まで読んでください。
数字を先に確かめてから応募しよう
飲食の仕事は、料理や接客そのものに手応えを感じて選ぶ人が多い分野です。その気持ちは大切にしてよいと思います。ただ、続けられるかどうかを決めるのは、休みが何日あるのか、残業がどう支払われるのか、人がどれだけ辞めているのかという、数字で表せる部分です。
離職率、年間休日、残業の形、店舗の回し方。この4つを産業の平均と並べて確かめてから応募すれば、業界全体への漠然とした不安に振り回されずにすみます。業界の平均が高いからといって、目の前の企業がそうだとは限りません。
ここで挙げた統計と制度は、誰でも同じ手順でたどれます。気になる企業があれば、まずは離職率のものさしを手元に置くところから始めてみましょう。

