「離職率が高い会社には入りたくない」——就職活動や転職活動を進めていると、一度はこの言葉を意識したことがあるはずです。求人サイトの口コミやSNSでも「あの会社は離職率が高い」という書き込みは珍しくありません。ただし離職率という数字は求人票に必ず書いてあるわけではなく、口コミも投稿者によって温度差が大きいものです。何をもって「高い」と判断すればよいのか、入社前にどこを見れば兆候をつかめるのか、意外と整理しないまま企業研究を進めている人も多いのではないでしょうか。この記事では、厚生労働省の公的な統計をもとに離職率の水準を確認したうえで、求人票・面接・口コミという実務レベルで離職率の高さをどう見抜くかを整理します。あわせて、離職率が高い会社を一律に避けるべきとは限らない理由にも触れていきます。
離職率が高い会社とは、どのくらいの数字を指すのか
そもそも「離職率が高い」という表現は、何パーセントを基準にしているのでしょうか。感覚的に使われがちな言葉ですが、国が毎年実施している公的な調査の平均値と比較すれば、ある程度は客観的に判断できます。
厚生労働省の調査でわかる全国平均離職率
厚生労働省が実施している雇用動向調査によると、令和6年の1年間における全国平均の離職率は14.2パーセントでした。前年からは1.2ポイント低下しており、入職率も14.8パーセントで前年より1.6ポイント低下しています(厚生労働省「令和6年雇用動向調査結果の概況」)。
単純計算すると、従業員100人の会社であれば1年間で14人前後が入れ替わっている状態が全国平均ということになります。この数字を頭に入れておくと、求人票や口コミに離職率らしき情報が出てきたときに、高いのか低いのかを大まかに判断する物差しになります。
業種によって水準はまったく違う
注意したいのは、14.2パーセントという数字はあくまで全産業をならした平均であり、業種ごとの差がかなり大きいという点です。同じ調査では、宿泊業・飲食サービス業の一般労働者の離職率が18.1パーセントと、全産業の中でも高い水準になっています(同資料)。
宿泊・飲食のようにシフト制で人の出入りが多い業種や、アルバイト・契約社員の比率が高い業種は、構造的に離職率が高く出やすい傾向があります。数字だけを切り取って「この会社は離職率が高いからブラックだ」と判断するのは早計で、まずは志望する業界そのものの平均水準を確認することが先決になります。
求人票と面接で離職率の高さを見抜く視点

では、実際の企業研究の場面で、離職率の高さをどう見抜けばよいのでしょうか。求人票に離職率そのものが書かれているケースは多くありませんが、いくつかの視点を押さえておくと、入社後のミスマッチをかなり減らせます。
求人票の文言から読み取れること
新卒者向けの求人については、若者雇用促進法(青少年の雇用の促進等に関する法律)により、応募者から求めがあった場合、企業は「募集・採用に関する状況」として、次の項目のうち1つ以上を提供する義務を負っています(厚生労働省「青少年の雇用の促進等に関する法律について」)。
- 過去3年間の新卒採用者数・離職者数
- 過去3年間の新卒採用者数の男女別人数
- 平均勤続年数
つまり求人票に離職率の記載がなくても、選考の過程で問い合わせれば開示してもらえる可能性があるということです。この照会に対してあいまいな返答しか得られない場合は、慎重に判断したほうがよいと考えられます。平均勤続年数も参考になる数値の一つで、同業他社と比べて極端に短い場合、離職率の高さを間接的に示している可能性があります。
面接や会社説明会で聞くとよい質問
面接の逆質問は、離職率の実態を探る貴重な機会です。「離職率は何パーセントですか」と直接聞くよりも、「入社3年目までの社員は何人くらい在籍していますか」「同期入社で今も働いている人はどのくらいいますか」といった具体的な聞き方のほうが、率直な回答を引き出しやすい傾向があります。
面接官が複数の年代・立場の社員だった場合は、それぞれに同じ質問を投げてみるのも有効です。回答内容が人によって大きく食い違うようであれば、組織内で情報が共有されていない、あるいは実態を語りづらい事情がある、と読み取れるかもしれません。
口コミサイトを読むときに気をつけたいこと
転職口コミサイトは便利な情報源ですが、投稿者の在籍時期や立場によって内容の温度差が大きいことに注意が必要です。退職者による投稿は不満が強調されやすく、在職者による投稿は表向きの評価に寄りやすい面があります。
特定の年度や部署に投稿が偏っていないか、直近1〜2年の投稿が複数あるかといった点を確認すると、一時的な部署の問題なのか、会社全体の構造的な課題なのかを見分けやすくなります。
離職率が高い会社に共通しやすい職場の特徴
公的な統計や口コミの読み方に加えて、離職率が高くなりやすい職場には、いくつか共通する運用面の特徴があります。企業研究の段階でここを確認しておくと、入社後の齟齬を減らせます。
労働時間と休日の運用実態
求人票に記載された所定労働時間や休日数と、実際の運用が一致しているかどうかは、離職率に直結しやすいポイントです。求人票上は週休2日でも、繁忙期は休日出勤が常態化している、といったケースは珍しくありません。会社説明会や面接で「繁忙期の残業時間の目安」を尋ねてみると、募集要項だけではわからない実態に近づけます。
評価と昇給の仕組みが見えるかどうか
評価制度や昇給のルールが不透明な会社では、頑張りが給与や役職に反映されないと感じた社員から離職していく傾向があります。人事評価の頻度、評価基準の公開範囲、昇給・昇格のモデルケースなどを、面接で具体的に確認しておくとよいでしょう。「頑張り次第です」といった抽象的な回答しか得られない場合、実際には評価の仕組みが整っていない可能性も考えられます。
新人教育の体制があるかどうか
教育担当者の有無、研修期間の長さ、OJTの進め方を具体的に説明できる会社は、社員の定着に投資している証拠だといえます。反対に「現場で覚えてください」という説明にとどまる場合、入社後のフォロー体制が手薄である可能性を考えておく必要があります。
離職率が高い会社に入ると、その後どうなりやすいか

離職率が高い会社を避けたいと考える背景には、入社後にどのような影響が出るのかという不安があるはずです。ここでは、就活生・若手転職者の視点から考えられる影響を整理します。
早期離職が職務経歴に残す影響
新卒で入社した会社を1〜2年で離れた場合、次の転職活動では「なぜ早期に離職したのか」を必ず問われます。会社側の労働環境に起因する離職であっても、採用担当者にはその背景が伝わりにくく、説明の負担が本人にのしかかりやすいというのが実情です。
厚生労働省の調査では、令和4年3月に卒業した新規大学卒就職者の就職後3年以内離職率は33.8パーセントで、前年度より1.1ポイント低下しました。高卒では37.9パーセント、短大等卒では44.5パーセント、中学卒では54.1パーセントとなっており、学歴による差も大きいことがわかります(厚生労働省「新規学卒就職者の離職状況(令和4年3月卒業者)」)。
3人に1人前後が3年以内に離職しているという水準を踏まえると、早期離職そのものが珍しいわけではありません。ただし、離職の理由を自分の言葉で説明できるかどうかで、次の選考での印象は大きく変わってきます。
スキルが積み上がりにくい環境の共通点
離職率が高い職場では、人員の入れ替わりに合わせて教育担当者や引き継ぎ資料も頻繁に変わり、体系立ったスキル習得がしづらくなる場合があります。結果として、在籍期間の割に身についたスキルが少なく、転職市場での評価につながりにくいという状態に陥ることもあります。この点は離職率という数字だけでは見えづらい部分であり、面接で「入社1年目にどんな業務を任されるか」「評価につながるスキルは何か」を具体的に聞いておく価値があります。
新卒の早期離職率から見えてくること
ここまでの数字を踏まえると、離職率が高い会社を一律に避けるべきかどうか、もう一段掘り下げて考える必要が出てきます。
離職率が高い=ブラックとは限らない理由
離職率の高さは、必ずしも労働環境の悪さだけを意味するわけではありません。成長段階にあるベンチャー企業や、事業拡大にともなって大量採用を行っている会社では、採用のミスマッチが一定数発生しやすく、結果として離職率が押し上げられることがあります。
逆に、離職率が低い会社がすべて働きやすいとも限りません。異動やジョブローテーションが少なく人の流動性が低い組織では、若手が挑戦できる機会が限られ、キャリアの停滞につながる場合もあります。長く勤める人が多いことと、成長機会が多いことは、必ずしもイコールではないのです。
なぜこうした逆転現象が起きるのでしょうか。離職率という数字は「何人辞めたか」を示すだけで、「なぜ辞めたのか」「辞めなかった人はなぜ残ったのか」までは説明してくれません。企業研究では離職率という単一の指標に頼るのではなく、労働時間・評価制度・教育体制といった複数の切り口を組み合わせて、総合的に判断する姿勢が欠かせません。
離職率が高い会社に関するよくある質問
離職率が高い会社について、就活生や若手転職者からよく寄せられる疑問をまとめました。
- 離職率は何パーセントから「高い」と言えますか。
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全国平均は14.2パーセント(令和6年)なので、この水準を大きく上回る場合は高いと判断する目安になります。ただし業種による差が大きいため、志望する業界の平均と比較することが前提になります。
- 求人票に離職率が書かれていない会社は避けるべきですか。
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記載がないこと自体は珍しくありません。若者雇用促進法により、応募者から求めがあれば新卒採用者数・離職者数や平均勤続年数などを開示する義務があるため、選考過程で問い合わせてみることをおすすめします。
- 離職率が高い会社に応募すること自体は避けたほうがよいですか。
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一律に避ける必要はありません。業界特性による離職率の高さと、労働環境に起因する離職率の高さを分けて考え、面接や口コミで実態を確認したうえで判断することが現実的です。
離職率だけで判断しない、企業選びの進め方
最後に、ここまで紹介した視点を、実際の企業研究の流れに落とし込んでおきます。
業界平均と比較する
厚生労働省の調査で志望業界の平均離職率を確認し、応募先の数字がその水準からどれだけ離れているかを把握します。
求人票と面接で具体的な数字を確認する
平均勤続年数や3年以内の在籍状況を尋ね、抽象的な回答しか得られない場合は注意して聞き進めます。
口コミと自分の価値観を照らし合わせる
口コミの偏りを踏まえたうえで、労働時間・評価制度・教育体制のどこを重視するか、自分の基準を明確にしてから最終判断します。
離職率は、企業研究における一つの手がかりに過ぎません。数字の背景にある業界特性や組織の運用実態まで踏み込んで確認することで、入社後のミスマッチを減らし、納得感のある選択につなげやすくなります。

