「不動産の仕事は成果しだいで稼げるけれど、働きやすい会社かどうかは入ってみないと分からなさそう」。不動産業界を志望する方からは、そうした戸惑いがよく聞かれます。求人票に並ぶのは歩合の上限額や未経験歓迎といった言葉で、その会社がどれだけ長く営業してきたのか、法令違反で処分を受けたことがあるのかまでは書かれていないためです。
ただ、不動産の売買や仲介を営む会社は、宅地建物取引業法にもとづく免許を受けて営業しています。免許を誰から受けたのか、何回更新してきたのか、免許取消や業務停止を受けた記録があるのか。こうした事実は国の仕組みで公開されており、応募を考える側が自分で確かめられます。
この記事では、免許番号の読み方から監督処分の調べ方まで、公開されている情報だけで不動産会社の輪郭をつかむ方法を、就活キャリア研究所の視点で整理しました。会社の評判ではなく、行政に届け出られた記録を出発点にする考え方です。
不動産会社の働きやすさが外から見えにくい理由
会社を調べ始める前に、この業界で求人票の情報が薄くなりやすい事情を押さえておくと、どこを補って確かめればよいのかが見えてきます。不動産業は免許を受けた事業であるにもかかわらず、求人票に載る情報と行政に届け出られている情報の間には、思いのほか大きな開きがあります。
扱う物件と顧客で一日の動き方が変わる
同じ不動産の仕事でも、個人向けの賃貸仲介と法人向けの投資物件の売買では、訪問先も商談の長さもまるで違います。宅地建物取引業法は、宅地または建物の売買、交換、そして売買・交換・貸借の代理や媒介を業として行う場合に免許を求めています(国土交通省)。一つの免許の下に性格の異なる仕事がまとまっているため、「不動産業界だから働き方はこういうもの」とまとめて語ることに無理があります。
ちなみに自分が所有する物件を自ら貸す行為は免許の対象に入りません。同じ「不動産の会社」と名乗っていても、宅地建物取引業の免許を持つ会社と持たない会社があるということです。応募先が免許業者かどうかは、後述の検索システムで名前を入れれば分かります。
給与に歩合が組み込まれやすい
仲介手数料が売上に直結する構造のため、基本給に加えて歩合給を組み合わせる形が採られやすくなります。提示された月給の総額が大きく見えても、そのうち毎月確実に受け取れる部分がどこまでなのかは、内訳を示してもらわないと分かりません。歩合の計算方法、みなし残業代が何時間分を含むのか、超えた分が別途支払われるのかは、応募の段階で書面にしてもらうのが確実です。
ここで見落とされがちなのが、尋ねたときの答え方そのものが判断材料になるという点です。歩合の計算式を即座に示せる会社は、社内で仕組みが文書化されているということでもあります。逆に「頑張り次第です」という返答しか返ってこない場合は、入社後に基準が変わっても気づけません。
会社が営業してきた年数が求人票に出てこない
設立年を載せない求人票は珍しくありません。事務所の内装が新しければ長く営業している会社に見えますし、逆に古い事務所でも設立から数年ということがあります。ところが不動産会社の場合、この点だけは番号を見るだけで見当がつきます。次の章で扱う免許証番号がその手がかりです。
免許の情報から読み取れる4つの視点

不動産会社が掲げている免許証番号と、行政が公開している免許情報を合わせると、会社の姿がかなり具体的に見えてきます。ここでは押さえておきたい4つの視点を順に取り上げます。
- 免許証番号のカッコ内の数字が示す営業の長さ
- 大臣免許か知事免許かで分かる事務所の広がり
- 事務所ごとの専任の宅地建物取引士の人数
- 監督処分を受けた記録の有無
免許証番号のカッコ内の数字が示す営業の長さ
不動産会社の店頭や広告に「東京都知事(3)第◯◯◯◯◯◯号」といった表記があります。このカッコの中の数字は回次と呼ばれ、東京都住宅政策本部が運営する宅地建物取引業者免許情報提供サービスの用語説明では、最初の免許取得時が1となり、その後の更新回数を加えたものと定められています(東京都住宅政策本部)。
そして宅地建物取引業の免許の有効期間は5年です。更新するには、有効期間が満了する日の90日前から30日前までの間に手続きが必要で、怠れば免許は失効します(国土交通省)。つまりカッコ内が3であれば2回の更新を経ており、少なくとも10年を超えて営業してきた計算になります。数字が大きいほど長く続いてきた会社だと読み取れます。
ただし注意したい点もあります。事務所を置く都道府県が変わって免許を受け直した場合は番号が改まるため、回次が1に戻ることがあります。数字が小さいことがそのまま実績の乏しさを意味するわけではありません。回次は会社の年数を推し量る手がかりであって、優劣を決める材料ではないと受け止めるのが妥当です。
大臣免許か知事免許かで分かる事務所の広がり
免許の種類は事務所の置き方で決まります。2つ以上の都道府県の区域内に事務所を設置して営む場合は国土交通大臣の免許、1つの都道府県の区域内に事務所を設置して営む場合は都道府県知事の免許です(国土交通省)。番号の頭を見るだけで、その会社が複数の都道府県にまたがって事務所を構えているかどうかが分かります。
転勤の可能性を考えるうえでも役立つ情報です。知事免許の会社であれば事務所は一つの都道府県に収まっており、大臣免許であれば複数の地域に拠点があると読めます。もちろん大臣免許の会社が必ず転勤を求めるわけではありませんが、面接で勤務地の考え方を尋ねるときの土台にはなります。
事務所ごとの専任の宅地建物取引士の人数
宅地建物取引業の免許の基準には、事務所に従業者5人に1人の割合で専任の宅地建物取引士を設置していない場合は免許を受けられないという定めがあります(国土交通省)。この比率は最低限の線であり、これを上回って有資格者を置いている会社は、資格取得を後押しする体制を持っている可能性があります。
国土交通省の建設業者・宅建業者等企業情報検索システムでは、2025年4月1日の更新で宅地建物取引業者の業者概要に従事者および専任の宅地建物取引士の総数が加わり、さらに事務所ごとの政令使用人氏名と専任の宅地建物取引士の人数の記載も追加されました(国土交通省)。従業者数と有資格者数を並べて見れば、その会社の資格保有の厚みが読み取れます。
監督処分を受けた記録の有無
宅地建物取引業者が法令に違反した場合、免許権者は監督処分を行います。国土交通省のネガティブ情報等検索サイトでは、国土交通大臣、各地方整備局長、北海道開発局長、沖縄総合事務局長および都道府県知事が宅地建物取引業者に対して行った行政処分等を、直近の5年分にわたり公開しています(国土交通省)。公開の対象は免許取消、業務停止、指示の3種類で、情報は概ね1か月に1度更新されています。
同サイトには、情報を公開していない地方公共団体もあるため、その場合は各地方公共団体のサイトを確認するようにという注意書きが添えられています。検索結果に出てこなかったからといって処分歴がないと即断せず、免許を出した行政庁のサイトも併せて見ておくと確実です。
なお免許の基準そのものにも、過去の違反を遠ざける仕組みが組み込まれています。免許を不正に取得するなどして免許を取り消された場合、禁錮以上の刑または宅地建物取引業法違反等により罰金の刑に処せられた場合、申請前5年以内に宅地建物取引業に関し不正または著しく不当な行為をした場合などは、5年間免許を受けられないとされています(国土交通省)。免許を持って営業を続けていること自体が、一定の審査を通り続けてきたことの証しでもあります。
数字で見る宅地建物取引業の全体像
個別の会社を調べる前に、業界全体の規模と行政処分の頻度を知っておくと、目の前の情報が例外的なものかどうかを判断しやすくなります。国土交通省が2025年10月3日に公表した令和6年度宅地建物取引業法の施行状況調査結果から、3つの数字を取り上げます(国土交通省)。
業者数は11年連続で増えている
令和6年度末である2025年3月末時点の宅地建物取引業者数は132,291業者で、その内訳は大臣免許が3,158業者、知事免許が129,133業者でした。前年度からは全体で1,708業者の増加となり、11年連続で増えています。大臣免許の会社は全体の2.4パーセントほどにとどまり、圧倒的多数は一つの都道府県で営む知事免許の会社です。求人で出会う会社の多くが地域に根ざした規模であることが、この数字から分かります。
監督処分は令和6年度で147件
同じ調査によれば、令和6年度に国土交通大臣または都道府県知事が行った監督処分は、免許取消99件、業務停止16件、指示32件の合計147件でした。前年度の167件から20件減っています。一方で、宅地建物取引業法第71条にもとづき文書で行った指導・助言・勧告である行政指導は592件で、前年度から61件増えました。
13万を超える業者数に対して監督処分は年間147件ですから、処分を受けた会社に当たる確率そのものは高くありません。それでも調べる価値はあります。数分の検索で、該当がないという事実を自分の目で確かめられるからです。
宅地建物取引士の登録者は約121万人
令和6年度には新たに30,336人が都道府県知事へ宅地建物取引士の登録を行い、総登録者数は1,211,760人となりました。新規登録者数は令和元年度以降おおむね増加が続いています。資格を持つ人の母数が厚いということは、入社後に資格を取る流れが業界に定着しているとも読めます。求人票に資格取得支援の記載があるかどうかは、確認しておきたい項目の一つです。
3つの数字を並べると、会社の数は増え続け、処分の件数は減り、有資格者は厚みを増しているという構図が浮かびます。裏を返せば、選択肢が多いぶん、一社ずつ記録を確かめる作業の値打ちが上がっているということです。
公開された免許情報をたどる手順

気になる会社が見つかったら、応募する前に次の3つの手順で記録をたどっておくと、面接で尋ねるべきことがはっきりします。いずれも登録や費用は不要です。
厚生労働省の職場情報総合サイト「しょくばらぼ」で、残業時間や定着の状況を調べます(厚生労働省)。月平均所定外労働時間、平均継続勤務年数、新卒者等の採用・定着状況といった項目を、複数の会社で並べて比べられます。掲載がない会社については、面接の場で同じ項目を尋ねれば足ります。
3つの手順を踏むと、免許の年数、事務所の広がり、有資格者の厚み、処分の有無、働く時間の目安がひととおり揃います。ここまで手元に置いたうえで面接に臨めば、質問の中身が具体的になります。
たとえば「事務所の従事者に対して専任の宅地建物取引士が多めに配置されていますが、資格取得の支援制度はありますか」と尋ねれば、調べたうえで来たことが伝わります。求人票を読んだだけの質問との差は、こうした一手間から生まれます。
不動産会社選びでよくある質問
- 免許番号のカッコ内が1の会社は避けるべきですか
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そうとは限りません。回次は最初の免許取得時が1となり、更新のたびに加算される数字です(東京都住宅政策本部)。事務所を置く都道府県が変わって免許を受け直した場合も1に戻るため、設立まもない会社と、拠点を移した長年の会社が同じ表示になります。会社概要の設立年と併せて見てください。
- 大臣免許の会社のほうが安心できますか
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免許の区分は事務所をいくつの都道府県に置いているかで決まるもので、経営の安定度を表す指標ではありません(国土交通省)。令和6年度末時点で大臣免許は3,158業者、知事免許は129,133業者です(国土交通省)。区分はあくまで事業展開の形と受け取るのが適切です。
- 処分歴は何年分さかのぼって見られますか
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国土交通省のネガティブ情報等検索サイトが公開しているのは直近5年分の行政処分等情報です(国土交通省)。情報は概ね1か月に1度更新されます。なお同サイトで情報を公開していない地方公共団体もあるため、その場合は当該団体のサイトを確認してください。
- 入社前に宅地建物取引士を取るべきですか
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必須ではありません。令和6年度の新規登録者は30,336人で、総登録者数は1,211,760人にのぼります(国土交通省)。入社後に取得する人も多いため、受験費用の補助や勉強時間の確保といった支援があるかを応募時に確認するほうが現実的です。
免許の記録を確かめてから応募しよう
不動産会社の働きやすさは、募集の言葉づかいや店舗の雰囲気からは読み取れません。一方で、その会社がいつから免許を受けているのか、どこに事務所を構えているのか、有資格者を何人置いているのか、処分を受けた記録があるのかは、行政の仕組みを使えば誰でも同じ手順で確かめられます。
免許証番号のカッコ内の数字は、そのもっとも手軽な入り口です。店頭の表示や広告を見るだけで、会社が歩んできたおおよその年数が分かります。そこから検索システムと処分情報へ進み、最後に働く時間の数字を確かめる。この順番をたどってから応募すれば、面接で聞くべきことがはっきりし、入社後の食い違いも減らせます。
公開された記録は、誰が見ても同じ内容が返ってきます。求人票の印象や面接で受けた雰囲気は人によって揺れますが、免許の回次や処分の有無は揺れません。揺れない事実をいくつか手元に置いてから、揺れる部分を自分の目で確かめる。この順序で会社を選んでいきましょう。

