「精密機器の大手といえば、カメラのニコンや時計のシチズン、セイコー」。業界研究を始めると、まずこうした名前を思い浮かべる人は多いはずです。3社とも東京証券取引所の業種区分で「精密機器」に入っているので、この印象は間違いではありません。ところが、精密機器に入る会社を売上高で並べると、1位と2位は医療機器の会社です。
各社が金融庁のEDINETに提出した、2026年10月27日時点で最新の有価証券報告書で連結の売上高を比べると、1位はテルモの1兆1,318億円、2位はオリンパスの1兆106億円、3位はHOYAの9,477億円です。カメラなどの映像事業が売上収益の4割強を占めるニコンは4位、シチズン時計は7位、セイコーグループは8位に入ります。
本記事では、東証が精密機器に分類する上場会社の売上高上位10社を、有価証券報告書の原文の数字で並べます。そのうえで、医療機器・光学・産業向けの装置・時計のどれで稼いでいるか、平均年収をどう読むか、自分で確かめる手順まで、就活キャリア研究所の視点で順に整理します。
精密機器業界の大手企業ランキング上位10社
精密機器業界の大手企業を連結の売上高が大きい順に並べると、上位10社は次のとおりです。数字は各社の有価証券報告書の「主要な経営指標等の推移」にある連結の数字で、日機装は2025年12月期、ほかの9社は2026年3月期です。億円未満は切り捨てています。
- テルモ:1兆1,318億円
- オリンパス:1兆106億円
- HOYA:9,477億円
- ニコン:6,771億円
- ニプロ:6,605億円
- 島津製作所:5,607億円
- シチズン時計:3,468億円
- セイコーグループ:3,356億円
- 日機装:2,156億円
- 東京精密:1,668億円
対象は、日本取引所グループが公表している東証上場銘柄一覧(2026年9月末)で、33業種の区分が「精密機器」になっている52社です。内訳はプライム市場が27社、スタンダード市場が18社、グロース市場が7社で、上位10社はすべてプライム市場の会社です(日本取引所グループ)。11位は朝日インテックの1,454億円(2026年6月期)です(朝日インテック有価証券報告書)。
売上高1兆円を超える2社
テルモとオリンパスは、連結の売上高が1兆円を超えています。テルモは事業を心臓血管カンパニー、メディカルケアソリューションズカンパニー、血液・細胞テクノロジーカンパニー、オーガンテクノロジーズ事業の4つに分けており、連結の従業員数は31,185人です(テルモ有価証券報告書)。
オリンパスの事業は、消化器内視鏡ソリューションとサージカルインターベンションの2つで、連結の従業員数は28,138人です(オリンパス有価証券報告書)。
売上高5,000億〜9,000億円台の4社
3位のHOYAから6位の島津製作所までの4社は、連結の売上高が5,000億円台から9,000億円台に並びます。4位のニコンと5位のニプロの差は166億円です。
HOYAはライフケアと情報・通信の2つの事業を持ち、連結の従業員数は37,752人です(HOYA有価証券報告書)。ニコンは映像、精機、ヘルスケア、コンポーネント、デジタルマニュファクチャリングの5つの事業を持ち、連結の従業員数は19,928人です(ニコン有価証券報告書)。
ニプロは医療関連、医薬関連、ファーマパッケージングの3事業を持ち、連結の従業員数は38,593人で、10社の中で最も多くなっています(ニプロ有価証券報告書)。島津製作所は計測機器、医用機器、産業機器、航空機器の4事業とその他の事業を持ち、連結の従業員数は14,649人です(島津製作所有価証券報告書)。
売上高1,000億〜3,000億円台の4社
7位から10位の4社は、連結の売上高が1,000億円台から3,000億円台です。シチズン時計は時計、工作機械、デバイスの3事業で、連結の従業員数は12,147人です(シチズン時計有価証券報告書)。セイコーグループはエモーショナルバリューソリューション、デバイスソリューション、システムソリューションの3事業で、連結の従業員数は11,326人です(セイコーグループ有価証券報告書)。
日機装は工業部門と医療部門の2つを持ち、連結の従業員数は2025年12月31日現在で8,120人です(日機装有価証券報告書)。東京精密は半導体製造装置と計測機器の2事業で、連結の従業員数は2,890人です(東京精密有価証券報告書)。
精密機器業界のランキングが分かりにくい3つの理由
精密機器業界のランキングが分かりにくいのは、業種の区分、決算期と会計基準、平均年収の対象の3つが、製品から受ける印象や一覧の作り方とずれやすいからです。
業種の区分が製品の印象と違うから
東証の業種区分は、証券コード協議会が会社ごとに決めています。同協議会は、会社の主要な事業内容が相当程度変化したことなどで基準に当たった会社について、毎年4月と10月に所属業種を変えています(日本取引所グループ)。2026年10月1日には、ADRバイオメディカルホールディングスが情報・通信業から精密機器に移りました(日本取引所グループ)。
精密な製品を作る会社が、すべて精密機器に入っているわけではありません。セイコーエプソンは、1942年5月に時計部品の加工などを目的に設立された大和工業が始まりで、1959年5月に第二精工舎の諏訪工場から営業を譲り受け、諏訪精工舎に社名を変えています(セイコーエプソン有価証券報告書)。それでも東証上場銘柄一覧での業種は電気機器で、富士フイルムホールディングスは化学に入っています(日本取引所グループ)。ランキングを見るときは、まずどの区分で会社を集めた一覧かを確かめてください。
決算期と会計基準がそろわないから
同じ「最新の有価証券報告書」でも、数字を締めた時期は会社ごとに違います。上位10社のうち日機装は2025年1月から12月まで、ほかの9社は2025年4月から2026年3月までの1年間の数字です。11位の朝日インテックは6月期の会社で、2026年6月期の報告書を2026年9月28日に提出しています(朝日インテック有価証券報告書)。
会計基準も違います。テルモ、オリンパス、HOYA、ニコン、日機装の5社は国際会計基準(IFRS)で、ニプロ、島津製作所、シチズン時計、セイコーグループ、東京精密の5社は日本の基準で連結財務諸表を作っています。IFRSの5社のうちオリンパス以外の4社は、売上の数字を「売上収益」という名前で載せています。報告書に「売上高」の行が見当たらないときは、「売上収益」の行を探してください。
平均年収が提出会社の従業員だけの数字だから
有価証券報告書の「平均年間給与」は、報告書を出した会社自身の従業員の平均で、子会社の従業員は入りません。シチズン時計は、時計事業を自社で、それ以外の事業を各事業統括会社で行う事業持株会社制をとっています。提出会社の従業員770人は時計事業の537人と全社(共通)の233人で、工作機械やデバイスの事業で働く人は、平均年間給与789万4,999円の計算に入っていません(シチズン時計有価証券報告書)。
セイコーグループは、2001年7月にウオッチ事業をセイコーウオッチに分社して持株会社になった会社で、提出会社の従業員は175人です。子会社の経営管理を主に行う会社の報告書には、2026年3月31日以後に終わる事業年度の分から、外国の会社を除く連結子会社のうち従業員数が最も多い会社の平均給与なども「最大人員会社」として載ります。その会社の従業員数が連結の過半数を超えないときは、次に多い会社も載ります(金融庁)。
セイコーグループの報告書では、最も多いセイコーウオッチが741人で平均年間給与923万7,296円、次に多い盛岡セイコー工業が673人で638万4,883円です(セイコーグループ有価証券報告書)。同じグループでも、どの会社に入るかで平均年間給与の数字は変わります。
精密機器大手を稼ぎ頭で分ける4つのタイプ

上位10社は、売上の最も大きい事業で分けると、次の4つのタイプに分かれます。事業ごとの数字は各社のセグメント情報にある外部顧客への売上高(テルモ、HOYA、ニコン、日機装は売上収益)で、割合は連結の売上高に占める比率です。
- 医療機器:テルモ、オリンパス、ニプロ
- 光学・ガラス:HOYA、ニコン
- 産業向けの装置:島津製作所、東京精密、日機装
- 時計:シチズン時計、セイコーグループ
医療機器の会社
テルモ、オリンパス、ニプロの3社は、売上の大半を医療機器の事業で得ています。テルモはカテーテルやステントなどを扱う心臓血管カンパニーが約60%(テルモ有価証券報告書)、オリンパスは消化器内視鏡ソリューションが約69%(オリンパス有価証券報告書)、ニプロは医療関連事業が79.3%を占めます(ニプロ有価証券報告書)。
売上の柱と、提出会社で働く人の多い事業は一致するとは限りません。テルモの提出会社の従業員5,736人のうち、心臓血管カンパニーは2,128人で、メディカルケアソリューションズカンパニーの2,469人より少なくなっています(テルモ有価証券報告書)。
光学・ガラスの会社
HOYAとニコンは、レンズやガラスの技術を使った製品で稼いでいます。HOYAの売上収益9,477億円のうち、メガネレンズやコンタクトレンズのヘルスケア関連製品が4,507億円、半導体用マスクブランクス・フォトマスクやハードディスク用ガラスサブストレートのエレクトロニクス関連製品が2,957億円です。日本の顧客への売上収益は1,930億円で、全体の約2割です(HOYA有価証券報告書)。
ニコンは、デジタルカメラや交換レンズなどの映像事業が売上収益の約43%、FPD露光装置と半導体露光装置の精機事業が約25%です。提出会社の従業員4,656人のうち映像事業は688人で、精機事業の1,166人より少なくなっています。デジタルカメラや交換レンズを製造する連結子会社としては、タイのアユタヤにNikon (Thailand) Co., Ltd.があります(ニコン有価証券報告書)。
カメラの仕事を目当てに応募するなら、その仕事を提出会社と子会社のどちらが担っているかを確かめておきたいところです。
産業向けの装置の会社
島津製作所、東京精密、日機装の3社は、工場や研究所などで使われる装置が売上の柱です。島津製作所は、クロマト分析システムや質量分析システム、材料試験機などの計測機器事業が約65%を占め、医用機器が約13%、ターボ分子ポンプなどの産業機器が約13%、フライトコントロールシステムなどの航空機器が約8%です(島津製作所有価証券報告書)。
東京精密は、ウェーハプロービングマシンやダイシングマシンなど、半導体の製造工程で使う加工・検査装置の事業が約77%、三次元座標測定機などの計測機器事業が約23%です(東京精密有価証券報告書)。日機装は、液化ガスに使う極低温用ポンプなどの工業部門が約63%、血液透析装置などの医療部門が約37%です。ただし提出会社の従業員は、医療部門の1,228人が工業部門の624人の約2倍です(日機装有価証券報告書)。
時計の会社
シチズン時計とセイコーグループは、時計が最大の事業ですが、時計以外の事業もシチズン時計で約43%、セイコーグループで約35%あります。シチズン時計は、ウオッチとムーブメントの時計事業が約57%、CNC自動旋盤の工作機械事業が約25%、自動車部品や水晶デバイスなどのデバイス事業が約18%です(シチズン時計有価証券報告書)。
セイコーグループは、ウオッチやクロック、高級宝飾・服飾・雑貨品のエモーショナルバリューソリューション事業が約65%、電池・材料や水晶振動子などのデバイスソリューション事業が約18%、決済やIoTのシステムなどのシステムソリューション事業が約16%です(セイコーグループ有価証券報告書)。
精密機器大手10社の平均年間給与
上位10社の提出会社の平均年間給与を高い順に並べると、次のとおりです。括弧の中は提出会社の従業員数と平均年齢で、日機装は2025年12月31日現在、ほかの9社は2026年3月31日現在の数字です。
- オリンパス:1,005万6,995円(2,469人・44.10歳)
- HOYA:970万4,451円(3,313人・47.6歳)
- セイコーグループ:944万6,162円(175人・44.2歳)
- 島津製作所:924万736円(3,779人・43.9歳)
- 東京精密:827万6,412円(1,428人・38.5歳)
- テルモ:821万6,621円(5,736人・40.3歳)
- ニコン:798万9,362円(4,656人・41.9歳)
- シチズン時計:789万4,999円(770人・43.9歳)
- ニプロ:681万4,000円(4,714人・40.8歳)
- 日機装:678万8,035円(2,104人・43.2歳)
10社のうち平均年齢が最も低いのは東京精密の38.5歳で、平均勤続年数も9.5年と最も短くなっています(東京精密有価証券報告書)。テルモの平均年齢・平均勤続年数・平均年間給与は、正社員だけで計算した数字です(テルモ有価証券報告書)。
平均年間給与は、賞与によって年ごとに上下します。オリンパスは前の事業年度より3.8%減り、主な理由を、業績に連動して算定される賞与の支給額が前の年度を下回ったことと説明しています(オリンパス有価証券報告書)。ニコンも前の年度より6.1%減りました(ニコン有価証券報告書)。1年分の数字だけで順位を決めず、前の年の報告書の数字とも並べてみてください。
有価証券報告書で精密機器大手を確かめる手順

この記事の数字は、日本取引所グループと金融庁のEDINETが公開している資料から取っています。次の3つの手順で、同じ数字にたどり着けます。
日本取引所グループの「東証上場銘柄一覧」を開き、Excelファイルの33業種区分の列で「精密機器」を絞り込みます。一覧は毎月第3営業日の午前9時以降に、前月末の分が掲載されます(日本取引所グループ)。
金融庁のEDINETで会社名を入れて書類を検索し、最新の有価証券報告書を開きます(金融庁)。「主要な経営指標等の推移」で連結の売上高を、「経理の状況」の「セグメント情報」で事業ごとの外部顧客への売上高を確かめます。同じ事業年度の訂正報告書が出ていれば、訂正された箇所もあわせて確かめます。
「従業員の状況」で、提出会社の平均年齢、平均勤続年数、平均年間給与と、事業ごとの従業員数を確かめます。子会社の経営管理を主に行う会社の報告書では、「最大人員会社の状況」も見ます。上位10社では、セイコーグループの報告書に載っています。
同じ報告書の「関係会社の状況」には、連結子会社ごとの所在地と主要な事業の内容が載っています。関わりたい製品をどの会社が作っているかを確かめておくと、応募する会社がその仕事を担っているかを判断できます。
精密機器業界の大手企業でよくある質問
- 精密機器業界で売上高が一番大きい会社はどこですか
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テルモです。2026年3月期の連結の売上収益は1兆1,318億円で、2位のオリンパスの1兆106億円を1,212億円上回っています(テルモ有価証券報告書)。
- オリンパスはカメラの会社ではないのですか
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オリンパスは2021年1月に映像事業をOMデジタルソリューションズに承継させ、日本産業パートナーズが設立したOJホールディングスに譲渡しました。2022年4月には科学事業を株式会社エビデントとして会社分割し、エビデントも2023年4月に譲渡しています。2026年3月期の報告セグメントは、消化器内視鏡ソリューションとサージカルインターベンションの2つです(オリンパス有価証券報告書)。
- シチズン時計とセイコーグループはどちらが大きいですか
-
会社全体の売上高では、シチズン時計の3,468億円がセイコーグループの3,356億円を上回ります(シチズン時計有価証券報告書)。時計を含む事業どうしで比べると、セイコーグループのエモーショナルバリューソリューション事業の2,180億円が、シチズン時計の時計事業の1,970億円より大きくなります。セイコーグループのこの数字には、クロックや高級宝飾・服飾・雑貨品も含まれます(セイコーグループ有価証券報告書)。
- キヤノンやシスメックスが入っていないのはなぜですか
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東証上場銘柄一覧で、2社とも業種が精密機器ではなく電気機器になっているからです。東証の17業種の区分では電気機器と精密機器が「電機・精密」にまとめられているので、2つの業種の会社を合わせて見たいときは、この区分で絞り込みます(日本取引所グループ)。
業種名ではなく稼ぎ頭の事業で会社を選ぼう
精密機器業界の大手企業は、連結の売上高で見るとテルモとオリンパスが1兆円を超え、HOYA、ニコン、ニプロ、島津製作所が5,000億円台から9,000億円台に並びます。カメラなどの映像事業が最大のニコンは4位、時計が最大の事業のシチズン時計とセイコーグループは7位と8位です。
同じ「精密機器」でも、医療機器、光学・ガラス、産業向けの装置、時計と、稼ぎ頭の事業は会社ごとに違います。提出会社でどの事業に人が多いかも、売上の柱と一致するとは限りません。気になる会社の有価証券報告書でセグメント情報と従業員の状況を開き、関わりたい製品の事業がどの会社にあるかを確かめてみてください。

