「百貨店の大手といえば、三越伊勢丹、高島屋、大丸松坂屋」。店の名前から、そう思い浮かべる人は多いはずです。ところが有価証券報告書の連結の売上高で順位を付けると、1位は阪急と阪神の百貨店を子会社で運営するエイチ・ツー・オー リテイリングです。同社の売上高の約6割は、食品スーパーなどの食品事業の売上です。
各社が金融庁のEDINETに提出した、2026年10月27日時点で最新の有価証券報告書で比べると、連結の売上高の1位はエイチ・ツー・オー リテイリングの6,802億円、2位は三越伊勢丹ホールディングスの5,456億円、3位は高島屋の営業収益4,923億円です。一方、百貨店の事業だけの売上高で比べると、1位は三越伊勢丹ホールディングスの4,467億円で、エイチ・ツー・オー リテイリングは1,853億円で4位になります。
本記事では、百貨店を運営する上場9社の売上高・従業員数・平均年間給与を有価証券報告書の原文から並べ、順位が入れ替わる理由と、自分で確かめる手順までお伝えします。
百貨店業界の大手企業ランキング上位9社
百貨店業界の大手企業を連結の売上高の大きい順に並べると、上位9社は次のとおりです。数字は各社の有価証券報告書にある「主要な経営指標等の推移」の連結の数字で、億円未満を切り捨てています。
- エイチ・ツー・オー リテイリング:6,802億円
- 三越伊勢丹ホールディングス:5,456億円
- 高島屋:4,923億円
- J.フロント リテイリング:4,450億円
- 近鉄百貨店:1,254億円
- 松屋:457億円
- 井筒屋:212億円
- 大和:159億円
- さいか屋:46億円
対象には、2026年9月末時点の東証上場銘柄一覧に載る会社のうち、有価証券報告書で百貨店の事業を報告セグメントにしている会社を選びました。上位4社と松屋はプライム市場、近鉄百貨店・井筒屋・大和・さいか屋はスタンダード市場の銘柄です(日本取引所グループ)。
決算期は、エイチ・ツー・オー リテイリングと三越伊勢丹ホールディングスが2026年3月期、さいか屋が2025年8月期で、ほかの6社は2026年2月期です。高島屋の数字は売上高とその他の営業収入を合わせた営業収益(高島屋有価証券報告書)、J.フロント リテイリングの数字は国際会計基準(IFRS)による売上収益です(J.フロント リテイリング有価証券報告書)。
4,000億円を超える4社
1位のエイチ・ツー・オー リテイリングは持株会社で、百貨店事業は子会社の阪急阪神百貨店が担っています。ほかに食品スーパーなどの食品事業、商業施設事業などを持ち、連結の従業員数は7,775人です(エイチ・ツー・オー リテイリング有価証券報告書)。
2位の三越伊勢丹ホールディングスは、百貨店業を中心に、クレジット・金融・友の会業や不動産業などを営む持株会社です。連結の従業員数は8,670人で、そのうち6,149人が百貨店業で働いています(三越伊勢丹ホールディングス有価証券報告書)。
3位の高島屋は持株会社ではなく、会社自身が大阪店、京都店、日本橋店、横浜店、新宿店などの百貨店を運営しています。本店の所在地は大阪市中央区です。国内と海外の百貨店業を主要業務とし、商業開発業や金融業、内装工事の建装業も営んでいます。連結の従業員数は6,518人です(高島屋有価証券報告書)。
4位のJ.フロント リテイリングは、百貨店事業を担う大丸松坂屋百貨店のほかに、ショッピングセンターを営むパルコを子会社に持つ持株会社です。連結の従業員数は5,584人で、そのうち3,037人が百貨店事業で働いています(J.フロント リテイリング有価証券報告書)。
1,000億円台の1社
5位の近鉄百貨店は、あべのハルカス近鉄本店を旗艦店とする会社で、本店の所在地は大阪市阿倍野区です。近鉄グループホールディングスが、間接所有の6.2%を含めて議決権の69.4%を持つ親会社です。連結の従業員数は1,954人です(近鉄百貨店有価証券報告書)。
500億円に満たない4社
6位から9位の4社は、特定の地域に店舗を持つ会社です。6位の松屋は東京の銀座と浅草に店舗を持ち(松屋有価証券報告書)、7位の井筒屋は北九州市に本店を置き、子会社の山口井筒屋とともに百貨店業を営んでいます(井筒屋有価証券報告書)。
8位の大和は、金沢市と富山市で百貨店2店舗を営んでいます(大和有価証券報告書)。9位のさいか屋は、横須賀市と藤沢市で百貨店を、川崎市でサテライト型店舗を営業しています(さいか屋有価証券報告書)。
百貨店のランキングが分かりにくい3つの理由
百貨店のランキングが一覧ごとに食い違って見えるのは、売上の数え方、売上高の呼び名、売上高に含まれる事業が、会社ごとにそろっていないからです。
消化仕入の売上を純額で数えるから
百貨店には、お客様への商品の販売と同時に取引先から商品を仕入れる「消化仕入」という取引があります。三越伊勢丹ホールディングスは、消化仕入の収益を、お客様から受け取る代金の総額から仕入先への支払額を差し引いた純額で計上しています(三越伊勢丹ホールディングス有価証券報告書)。
この数え方は「収益認識に関する会計基準」によるもので、高島屋は2023年2月期からこの基準を適用し、過去の期にはさかのぼって適用していません。高島屋の売上高は、2022年2月期の6,956億円から2023年2月期の3,688億円へ、ほぼ半分になっています(高島屋有価証券報告書)。売上高の数字だけを見て、その年に店の売上が半分になったと読むことはできません。
基準を適用する前の数え方に当たる「総額売上高」を、有価証券報告書に載せている会社もあります。エイチ・ツー・オー リテイリングの百貨店事業は、総額売上高が6,210億円なのに対し、セグメント情報の外部顧客への売上高は1,853億円です(エイチ・ツー・オー リテイリング有価証券報告書)。
松屋は総額売上高1,230億円に対して売上高457億円です(松屋有価証券報告書)。井筒屋は、百貨店業の代理人取引を総額に置き換えた売上高が525億円で、売上高212億円の2倍を超えます(井筒屋有価証券報告書)。
会社ごとに売上高の呼び名が違うから
有価証券報告書の損益の一番上に載る数字の名前は、会社ごとに違います。三越伊勢丹ホールディングスやエイチ・ツー・オー リテイリングは「売上高」、高島屋は「営業収益」、J.フロント リテイリングは「売上収益」です。
高島屋の営業収益4,923億円は、売上高4,019億円とその他の営業収入904億円を合わせた数字です(高島屋有価証券報告書)。売上高だけで比べると、高島屋はJ.フロント リテイリングの売上収益4,450億円を下回り、3位と4位が入れ替わります。
会計の基準も1社だけ違います。9社のうち、J.フロント リテイリングは国際会計基準で連結財務諸表を作っており(J.フロント リテイリング有価証券報告書)、ほかの8社は連結財務諸表規則に基づいて作っています。J.フロント リテイリングは、総額売上高として売上収益の約2.9倍にあたる1兆2,904億円も載せています。
百貨店以外の事業が含まれるから
連結の売上高には、百貨店以外の事業の売上も入ります。エイチ・ツー・オー リテイリングの売上高6,802億円のうち、食品事業の外部顧客への売上高は4,158億円で、百貨店事業の1,853億円の2倍を超えます。食品事業では、子会社が食品スーパーマーケットを展開しています(エイチ・ツー・オー リテイリング有価証券報告書)。
J.フロント リテイリングでも、パルコなどのSC事業の外部収益が660億円、不動産の開発などを行うデベロッパー事業が601億円あります(J.フロント リテイリング有価証券報告書)。近鉄百貨店の売上高にも、子会社による輸入自動車の販売などの卸・小売業150億円が含まれます(近鉄百貨店有価証券報告書)。連結の売上高の順位は、百貨店の事業の大きさの順位と同じではありません。
百貨店大手の違いが表れる4つの視点

百貨店大手の違いは、連結の売上高の順位よりも、次の4つを有価証券報告書で見比べると見えてきます。
- 百貨店の割合:連結の売上高に占める百貨店事業の割合を見る
- 店舗の地域:店舗がどの地域に集まっているかを見る
- 働く会社:持株会社の数字か、百貨店を運営する会社の数字かを見分ける
- 年齢と勤続:年収と平均年齢・平均勤続年数を並べて見る
百貨店事業が売上高に占める割合
百貨店事業の売上高を大きい順に並べると、上位5社は次のとおりです。数字はセグメント情報の外部顧客への売上高で、高島屋は営業収益、J.フロント リテイリングは外部収益です。括弧の中は、連結の売上高に占める割合です。
- 三越伊勢丹ホールディングス:4,467億円(約82%)
- 高島屋:3,381億円(約69%)
- J.フロント リテイリング:2,677億円(約60%)
- エイチ・ツー・オー リテイリング:1,853億円(約27%)
- 近鉄百貨店:1,031億円(約82%)
高島屋の数字は、国内百貨店業の3,038億円と海外百貨店業の343億円の合計です。海外百貨店業には、タカシマヤ シンガポールなどの子会社5社が入っています(高島屋有価証券報告書)。消化仕入の割合は会社ごとに違うため、この数字も売場で動いた金額そのものではありません。
百貨店の事業で働く人の数も、同じ順に並びます。三越伊勢丹ホールディングスの百貨店業は6,149人、高島屋の国内と海外の百貨店業は合わせて4,455人、J.フロント リテイリングの百貨店事業は3,037人です。エイチ・ツー・オー リテイリングの百貨店事業は2,596人、近鉄百貨店の百貨店業は1,516人です。
店舗が集まる地域
店舗が集まる地域は、会社ごとに違います。三越伊勢丹ホールディングスの子会社の三越伊勢丹は、伊勢丹新宿本店、三越日本橋本店、三越銀座店などを運営しています。ほかに、札幌丸井三越、仙台三越、名古屋三越、福岡市の岩田屋三越など、地域ごとに百貨店業を営む子会社があります(三越伊勢丹ホールディングス有価証券報告書)。
エイチ・ツー・オー リテイリングの阪急阪神百貨店は、大阪市北区の阪急うめだ本店と阪神梅田本店などの店舗を運営しています(エイチ・ツー・オー リテイリング有価証券報告書)。近鉄百貨店は、あべのハルカス近鉄本店のある「あべの・天王寺エリア」を最重要拠点としています(近鉄百貨店有価証券報告書)。
J.フロント リテイリングの大丸松坂屋百貨店は、大丸の大阪・心斎橋店、京都店、神戸店、東京店、札幌店と、松坂屋の名古屋店、上野店などを運営しています(J.フロント リテイリング有価証券報告書)。高島屋も、本店の所在地は大阪市ですが、日本橋店や新宿店、横浜店など首都圏にも店舗があります。同じ会社でも店舗が複数の地域にあるため、配属や異動の範囲を面接で尋ねておきましょう。
社員が所属する会社
9社のうち、三越伊勢丹ホールディングス、J.フロント リテイリング、エイチ・ツー・オー リテイリングの3社は持株会社で、百貨店は子会社が運営しています。有価証券報告書の「平均年間給与」は、報告書を出した会社自身の従業員の平均です。この3社の数字は、持株会社で働く数百人の平均になります。
エイチ・ツー・オー リテイリングの平均年間給与は1,001万2,000円ですが、対象は同社の従業員210人です。同じ報告書には、外国の会社を除く連結子会社で従業員数が最も多い阪急阪神百貨店の数字も「最大人員会社」として載っており、2,596人で677万1,000円です(エイチ・ツー・オー リテイリング有価証券報告書)。
三越伊勢丹ホールディングスの896万4,463円は、他社からの出向者を含む同社の従業員386人の数字です。最大人員会社の三越伊勢丹は、3,290人で710万3,951円です(三越伊勢丹ホールディングス有価証券報告書)。J.フロント リテイリングの897万9,626円も、大丸松坂屋百貨店などからの出向者を含む243人の数字です(J.フロント リテイリング有価証券報告書)。持株会社の平均年間給与は、百貨店を運営する会社で働く人の年収とは別の数字です。
平均年齢と平均勤続年数
平均年間給与は、平均年齢や平均勤続年数と並べて読むと意味が変わります。百貨店を自ら運営する会社と、持株会社の報告書に載る最大人員会社の数字を、ランキングの区切りで2つに分けて並べます。並びは年齢・勤続年数・平均年間給与の順です。
連結の売上高が1,000億円を超える5社のグループでは、大丸松坂屋百貨店を除く次の4社の数字が分かります。
- 高島屋:49.3歳・25.3年・792万円
- 三越伊勢丹:46.1歳・23.1年・710万3,951円
- 阪急阪神百貨店:46.5歳・21.7年・677万1,000円
- 近鉄百貨店:46.9歳・22.2年・519万6,000円
連結の売上高が500億円に満たない4社は次のとおりです。
- 松屋:47.5歳・21.9年・732万3,000円
- 大和:46.9歳・18.4年・402万円
- 井筒屋:51.4歳・19.2年・384万8,550円
- さいか屋:52.4歳・18.9年・381万9,000円
三越伊勢丹と阪急阪神百貨店は2026年3月31日時点、さいか屋は2025年8月31日時点、ほかは2026年2月28日時点の数字です。平均年間給与には各社とも賞与を含みます。三越伊勢丹の数字の注記は「賞与を含んでおります」だけで、ほかの7社が含むと明記している基準外賃金については書いていません。
三越伊勢丹と近鉄百貨店は、平均年齢の差が0.8歳、平均勤続年数の差が0.9年ですが、平均年間給与は約190万円違います。平均年間給与だけで比べず、平均年齢と平均勤続年数、何を含めた数字かを横に並べてから比べましょう。
有価証券報告書で百貨店大手を確かめる手順

この記事に載せた会社ごとの数字は、金融庁のEDINETで公開されている有価証券報告書から取っています。次の3つの手順で、同じ数字にたどり着けます。
金融庁のEDINETで会社名か証券コードを入れて書類を検索し、書類の種類が「有価証券報告書」で、事業年度が最も新しいものを開きます(金融庁)。同じ事業年度の訂正報告書が出ていれば、訂正された箇所もあわせて確かめます。
「主要な経営指標等の推移」で、連結の売上高と決算年月を確かめます。続けて、連結財務諸表の注記にある「セグメント情報」で、百貨店事業の外部顧客への売上高を確かめます。総額売上高を載せている会社では、「経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析」に書かれています。
「従業員の状況」で、提出会社の平均年齢、平均勤続年数、平均年間給与を確かめます。2026年3月31日以後に終わる事業年度の報告書では、この項目が「第4 提出会社の状況」に移りました。主に子会社の経営管理を行う会社の報告書には、「最大人員会社」の数字も載ります(金融庁)。2026年2月期の報告書では、これまでどおり「第1 企業の概況」に載っています。
最大人員会社の数字は、その会社の従業員数が連結の従業員数の過半数に満たないとき、次に従業員数が多い会社の分も載ります(金融庁)。三越伊勢丹ホールディングスの報告書でクレジットカードのエムアイカードの数字が読めるのは、この決まりによるものです。決算月が2月の会社の報告書は、2027年2月期の分からこの新しい決まりの対象になります。
百貨店業界の大手企業でよくある質問
- 三越と伊勢丹は別の会社ですか
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株式会社三越と株式会社伊勢丹は、2011年4月1日に合併して株式会社三越伊勢丹になりました。2社はそれより前の2008年4月1日に、株式移転で三越伊勢丹ホールディングスを共同で設立しています(三越伊勢丹ホールディングス有価証券報告書)。合併後も、伊勢丹新宿本店や三越日本橋本店のように、店の名前に2社の名前が残っています。
- 大丸と松坂屋はどこの会社ですか
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J.フロント リテイリングが議決権の100%を持つ大丸松坂屋百貨店です。2010年3月1日に松坂屋が大丸を吸収合併し、社名を大丸松坂屋百貨店に変えました。2026年2月期の売上収益は2,499億円です(J.フロント リテイリング有価証券報告書)。ただし福岡天神の大丸は博多大丸、高知の大丸は高知大丸という、同じグループの別の会社が運営しています。
- 阪急百貨店と阪神百貨店は同じ会社ですか
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同じ会社です。阪急百貨店は2007年10月に阪神百貨店を株式交換で子会社にし、同時にエイチ・ツー・オー リテイリングへ社名を変えて持株会社になりました。2008年10月には、子会社になった阪急百貨店と阪神百貨店が合併し、阪急阪神百貨店に商号を変えています(エイチ・ツー・オー リテイリング有価証券報告書)。
- そごう・西武が順位に入っていないのはなぜですか
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そごう・西武は、2026年9月末時点の東証上場銘柄一覧に名前がありません(日本取引所グループ)。金融庁のEDINETで社名を検索しても有価証券報告書が見つからず、この記事の物差しである売上高を確かめられません(金融庁)。日本百貨店協会が2026年9月の売上高を集計した百貨店は68社169店で(日本百貨店協会)、その大半は自らは上場していない会社です。上場していない会社は、厚生労働省の職場情報総合サイトで社名を検索し、正社員の平均継続勤務年数や月平均所定外労働時間を公表していないかを確かめます(厚生労働省)。
百貨店事業の売上と働く会社を確かめて選ぼう
百貨店業界の大手企業は、連結の売上高で見るとエイチ・ツー・オー リテイリングが6,802億円で首位に立ち、三越伊勢丹ホールディングス、高島屋、J.フロント リテイリングが4,000億円を超えて続きます。ただし、エイチ・ツー・オー リテイリングの売上高の約6割は食品事業で、百貨店事業だけなら三越伊勢丹ホールディングスの4,467億円が最も大きくなります。
会社ごとの違いが表れるのは、順位よりも、百貨店事業の割合と、社員が所属する会社です。百貨店事業の売上はいくらか、応募する会社は持株会社か百貨店を運営する会社か、店舗はどの地域にあるか。気になる会社の有価証券報告書でセグメント情報と従業員の状況を開き、自分が働く会社の数字を確かめてみてください。

